もう一度、この愛に気づいてくれるなら
エレーヌは勇気を振り絞って、国王に向けて口を開いた。

「母は、わたしの母は……、あの、どこに、母はどうなったのでしょうか………?」

エレーヌに母を想わない日は一日とてなかった。

エレーヌが塔を出てからもその姿を一度も見ないことから、おそらくは死んでしまったのだろう。しかし、どんな亡くなり方をしたのか。ちゃんと葬られたのか。少しでも知りたかった。

「そなたの母親か」

国王は目に慈愛を浮かべた。

「そなたの母は、安らかに死んだぞ。丁重に葬った。安心せよ」

国王は力強く言った。

(お母さま……、お母さま………! ありがとうございます。国王陛下、ありがとうございます……!)

エレーヌは涙をはらはらと流しながら、国王に何度もお辞儀した。

国王の言葉で、エレーヌは最後に母は国王を頼ったのだと思い込んだが、国王は気休めを言ったに過ぎなかった。昔手を付けた下女の顛末など、国王にとってはどうでも良かった。

実際は、エレーヌの母親は、塔を出た数日後、王都の外れで遺体で発見された。身元を詮索されることもなく遺体は共同墓地に埋葬された。干からびた体は、死期を悟ってみずから水断ちしたことを物語っており、その顔は安らかだった。娘を一人で生きて行けるまで守り育てた人生は、それなりに満足のいくものだったのかもしれない。

「安らかに死んだ」との国王の弁は偶然、真実を言い当てていたにすぎないが、エレーヌは心残りなく異国へと出発できることとなった。

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