もう一度、この愛に気づいてくれるなら
ブルガン王宮に、一人の賊が現れた。

ズボンらしきものは穿いているが上は裸で、髪はボサボサだった。そして、汚らしく、異臭がする。

兵士らが槍を向ければ、するりと交わした。

馬上の賊は身のこなしが尋常ではなく、兵士らが寄ってたかってもするりと交わして捉えることができなかった。

そして、帝国語らしき言葉で何やら喚き始めたため、帝国語のわかる騎士たちが呼ばれた。

騎士によればラクア国王を騙っているという。

「こんな賊が国王のはずがないだろう」

「ラクア国王は美丈夫なはずだ」

しかし、そういう目で見れば、その男の態度は実に堂々としており、汚らしいくせに、威風が備わっている。

一人の騎士が思い出した。

(そういえば、婚姻使節団のラクア騎士が、ラクア国王は、いつも裸でごろついているとか自虐めいた冗談を言っていたが、まさか……)

報告を受けた宰相は言った。

「とりあえず風呂に入れろ」

「しかし、陛下に会わせろと言って聞かないんです」

「そんな汚いなりで陛下に会わせるわけにはいかんだろ」

そうこうしている間に、自称ラクア国王は、馬から降りて、勝手にずんずんと王宮に入っていく。しかし、途中で、よろめいた。

それは本物のラクア国王、ゲルハルトだった。

ゲルハルトは、馬車で一か月かかる道のりを、たった5日で到着した。石畳の王都に着いたとき、ゲルハルトに着いてこられた側近は一人もいなかった。

アレクスがいれば着いてこられたかもしれなかったが、あいにくアレクスはいなかった。

不眠不休の、ほぼ飲まず食わずで駆けてきたのだ。

さすがのゲルハルトでも消耗していた。

ゲルハルトが客間でひと眠りし、風呂に入り、食事を終えた頃には、一騎二騎とラクアからの騎士が到着し、それが軍勢と呼べるものになったので、やっと、ラクア国王だと認識された。

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