もう一度、この愛に気づいてくれるなら
エレーヌの生い立ち
ブルガン国王はラクア国王がやってきたと聞いて、眉をしかめた。
(やはりあれでは不満が募ったか)
第三王女の突然の失踪で仕方なかったにせよ、塔に隠れ住んだ娘を身代わりにしたが、ブルガン王家の血であることは間違いないし、外見もすこぶる良かったはずだ。
文句を言われたら、今度こそ、第三王女を差し出せばいい。少々傷物だが、こちらもブルガン王家の血を引くのだ。そう思い腹をくくった。
第三王女のイザベラを呼び出した。
イザベラは護衛騎士と駆け落ちしたものの、平民の生活に耐えられなくなり、戻ってきた。駆け落ちのせいで、護衛騎士の末路は憐れなものとなったが、イザベラには知らせていない。
イザベラにとっては不満の募る生活で、護衛騎士とも毎日喧嘩ばかりのようだったから、もう興味もなさそうだし、知らせても良い気はしないだろう。
「イザベラ、ラクア王国への輿入れの心構えをしておけ」
「………」
戻ってきてより、随分しおらしくしているが、イザベラは返事をしなかった。
今回の話はイザベラにとっては良いものではなさそうだった。
(だって、汚くて臭い人なんでしょう? そんな人と結婚するのは嫌よ)
イザベラはやってきたラクア国王の風体を耳にして、駆け落ちしてよかった、と心の底から思ったばかりだった。
イザベラは父王に易々と従えなかった。
しかし、父王は無情に言い捨てる。
「とにかく、その心構えでおれ。今夜の歓迎式では、着飾ってくるように」
「………はい」
(もう一度、城から逃げちゃおうかしら)
イザベラはそんなことを考えていた。駆け落ちのせいで、侍女の数人の首が飛んだが、そのこともイザベラは知らされておらず、イザベラもまた世間知らずの常識知らずだった。