もう一度、この愛に気づいてくれるなら
愚人の行く末
宿場町で一泊した朝、エレーヌはディミーと別れることになった。エレーヌ一人を馬車に乗せて、ディミーは言う。
「これから馬車は、エレーヌさまを安全な領主館へとお連れします。すべて、手配しておりますのでご安心ください」
そう言ってきたディミーは晴れ晴れとしているように見えた。エレーヌを元気づけるためかもしれなかった。
「では、あなたとはもうお別れなのね。あなたはどうするの? あなたもブルガンにはもう戻れないでしょう?」
政略結婚を不意にしたディミーもおめおめとブルガンには戻れないはずだ。
エレーヌは迷惑をかけたことが心苦しかった。
「大丈夫ですわ。私はこれでも役目を果たしただけですの」
「役目?」
「人には役目というのがあるのです。私はその役目を果たしただけでございます」
(役目……。ディミーを巻き込んでしまったけど、役目だととらえてくれているのね)
「息子さんは大丈夫なの?」
それは大きな気がかりだった。
ディミーは急に顔に侮蔑を浮かべた。これまでエレーヌには見せたことのない顔つきだった。そして、帝国語で言ってきた。
「本当に愚かで憐れな王女。いもしない息子の心配までして。私のせいじゃない、あなたの愚かさが自分の足をすくったのよ」
「え?」
エレーヌには、いくつかの単語しか聞き取れなかった。
ディミーは侮蔑を引っ込め、悲しげに笑った。そしてブルガン語で言った。
「エレーヌさま、本当にごめんなさい。お許しください。私もやりたくてやったわけではございませんの。では、ごきげんよう」
ディミーは、馬車のドアを閉めた。