もう一度、この愛に気づいてくれるなら
エレーヌの乗った馬車は山間に入ってしばらくしたところで、止まった。
護衛騎士らが馬から降りて馬車に近づいてくるのが窓から見えた。
どういうわけか、彼らはみな一様に硬い顔つきをしている。きれいな花の咲いた木でも見つけて花見に誘うような顔つきでは決してなかった。
騎士の一人は剣を抜いていた。
(私、ここで殺されてしまうんだわ)
エレーヌはやっと悟った。
(ディミーは、愚か、と言っていたわね。あれは私のことだった。ああ、本当にそうかもしれない。私は愚か者なんだわ)
エレーヌの体はガタガタと震えたが、恐怖が頂点に達したところで、震えは止まった。毅然と胸を張って目を閉じた。
(殺すのならば殺せばいい。しかし、私は、惨めではないわ。どれだけ愚かだろうと、私なりに一生懸命に生きたわ。何ら恥じることなく生きてきた)
覚悟が決まれば、何の心残りもないような気がしていた。
短い人生だった。母と過ごした温かい時間を思い出した。一人になってからは、刺繍がエレーヌを支えてくれた。
ゲルハルトの満面の笑みが浮かんだ。大きな愛をくれた人。
毅然と背を伸ばしたエレーヌはうっすらとほほ笑んでいた。