もう一度、この愛に気づいてくれるなら

それから、エレーヌはシュタイン城でとても穏やかな日々を過ごすことになった。

午前は女ばかりで楽しく刺繍をし、午後は夫妻とともに散策し、晩餐を迎える。

それは温かで穏やかで、エレーヌは、シュタイン城で過ごすうちに、王宮でのことが日に日に薄れていくことを感じていた。

思えばゲルハルトとともにいた頃は嵐のような日々だった。突然、エレーヌの孤独に入って来て強引に心を奪い、鮮烈な愛を残していった人。

いまだエレーヌは夜になれば、目が覚めれば、空を見れば、ゲルハルトを思って胸が騒がしくなる。苦しくてたまらなくなる。

それでも、穏やかで温かさに包まれた日々に、ゲルハルトのことが思い出になることを確信していた。
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