もう一度、この愛に気づいてくれるなら
シュタイン城に来て、半年ほど過ぎた、ある夜のことだった。
ベッドの上で眠りに落ちようとしたとき、声が聞こえてきた。窓の外で誰かが怒鳴っている。
「この城は、乗っ取られたのさあ! ここは男爵さまが領主だったんだ!」
ひどくなまったラクア語だったために、エレーヌには男の言っていることがさっぱりわからなかった。城、という言葉のみかろうじて聞き取れただけだった。
ベッドから起きて窓に向かえば、城の前で年を取った農夫らしき男が叫んでいた。酔っているらしく、足元がおぼつかない。わらわらと現れた兵士らが男をどこかへと連れ去っていく。
「ここには、偽物の主人が、居座ってるのさ!」
男はなおもそんなことを叫んだが、エレーヌにはやはりほとんど聞き取れなかった。
けれどもエレーヌはどこか恐ろしくなって、ベッドに戻って、掛布を被って丸くなった。
しばらくして、侍女が覗きにきたのか、ベッドのそばに人が来た気配があった。
エレーヌはじっと丸まっていれば、低い声が聞こえてきた。
「エレーヌ……、寝ているようね……。あなたは安らかにお眠りなさい……。何も知らずに幸福なままで……」
シュタイン夫人の声だった。
エレーヌは引っ掛かりを感じるも、その引っ掛かりは眠気に紛れてどこかへといった。