もう一度、この愛に気づいてくれるなら
すべては、エレーヌの幸せのために
ゲルハルトは、その日、王都から馬で半刻ほどの場所に向かった。そこは小高い丘になっており、田園風景を見下ろせる。

やってきた二人の人物が、先に来ているゲルハルトのもとまでくると恐縮して膝をついた。

「陛下! お待たせを!」

「いいのだ。俺が早く来たのだから」

それは定例の報告だった。

二人のうち、女の方が言う。

「エレーヌさまは、お健やかに、そして、穏やかに過ごしておられます」

それはシュタイン夫人だった。そして、男のほうは、その夫役だ。

「そうか」

ゲルハルトは目を細めて、満足げに笑った。そして、田園風景に目を戻す。その目線の先、こんもりと茂った内側にシュタイン城はあった。

誰の目も届かぬように、大切な大切な人を秘匿するための離宮。

エレーヌの真の庇護者はゲルハルトだった。

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