もう一度、この愛に気づいてくれるなら

「エレーヌさまは、魔物から夫を取り返す、そう言っておられます」

シュタイン夫人はそう報告してきた。そして、刺繍を一心不乱にしているという。

ゲルハルトは目を見張った。エレーヌは、はた目には静かに刺繍をしているだけに違いなかったが、内面では戦っているのだ。

(あの夜、エレーヌは俺に愛を伝えていた。俺は憎まれているのではなく愛されていた)

エレーヌは、ゲルハルトに『憎い』と言われたと思っていたにもかかわらず、「愛している」と伝えていたのだ。

それを知ったときのゲルハルトは、エレーヌを自分の言葉で傷つけてしまったことに苦しんだが、すぐにそれを覆うほどの喜びに満たされた。

(エレーヌは俺を愛している……)

誤解の全容はいまだ解けず、エレーヌはいまだ混乱の中にいるのだろう。そして今、それを克服しようと戦っている。

ゲルハルトには確信があった。

エレーヌは必ず魔物を倒す。

ゲルハルトはあふれんばかりの愛をエレーヌに与えた。エレーヌにもゲルハルトの思いは通じていたはずだ。

たとえ悪意に引き裂かれようと、気づくはずだ。ゲルハルトの大きな愛に。

そっと見守っているだけのつもりだったゲルハルトは、エレーヌの真なる想いを知って、待つようになった。エレーヌが愛に気づくことを。

―――俺は鈍感で、あなたは未熟で、それであまりに愚かしく、魔物に翻弄されてしまったけど、それでも、俺たちは再び愛し合うことができるはず。

エレーヌ、あなたが、もう一度、この愛に気づいてくれるなら。

もう一度、俺の腕の中に戻ってきてくれるなら。

俺は、何度でも、あふれんばかりの愛をあなたに捧げる―――。











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