そっと、ぎゅっと抱きしめて
車が走り出してから30分程が経っただろうか。
住宅街に入って行く伊吹さんの車は、ある1軒の一戸建ての前で車を停めた。
「車庫に車入れるので、降りて待っててもらっていいですか?」
伊吹さんにそう言われ、わたしは「はい。」と車から降りた。
黒い外観のお洒落な一戸建ては、まだ新築のような雰囲気を醸し出していた。
その横にある車庫に伊吹さんは車を収めると、車から降りてきた。
「立派なお家ですね。」
わたしがそう言うと、伊吹さんは「最近、建て直したばかりなんですよ。今は、父が1人で住んでます。」と言った。
「あ、そうなんですか?」
「俺は、こっちのアトリエに籠りっぱなしです。」
そう言って伊吹さんが左に視線をズラした先には、真っ白い平屋が建っていた。
「これが俺のアトリエです。」
真っ白い平屋に木製のドアが目立つアトリエ。
伊吹さんは鍵を開け、アトリエのドアを開くと「どうぞ。」と言った。
わたしはゆっくりと足を進めると、伊吹さんが開けてくれたドアから中へ足を一歩踏み入れた。
「わぁ、、、。」
たくさん並ぶ絵に、お洒落な装飾。
まだ描きかけの風景画。
初めて入るアトリエに、わたしは何とも言えない今までに経験したことのない感動を感じていた。