そっと、ぎゅっと抱きしめて
しかし、不思議なことにどこか女性らしさがある装飾。
小さな電球が連なって壁に下がっており、閉まる窓辺にはニッコリとした顔が描かれた白いオモチャカボチャが飾ってあった。
アトリエのドアを閉める伊吹さんは、アトリエを見回すわたしの横に来ると、「ここは元々、母のアトリエだったんです。」と言った。
「えっ?お母様の?」
「母は美術の先生をしていて、プライベートでも絵を描くのが好きな母の為に父がこのアトリエを建てたんです。それを今は、俺が引き継いで使わせてもらってます。」
伊吹さんの言葉に"女性らしさ"を感じたことに納得する。
アトリエらしい絵具や鉛筆の匂いが混ざる独特な匂い。
「あ、どうぞ。掛けてください。今、珈琲淹れますから。インスタントですけど。」
そう言いながら笑う伊吹さん。
わたしは「いえいえ!大丈夫ですよ、お構いなく!」と言った。
「女性を招いておきながら何も出さない訳にはいかないじゃないですか。とか言って、ただのインスタント珈琲ですけど。砂糖とミルクは要りますか?」
「あ、じゃあ、ミルクだけ。」
「ミルクだけですね。」
そう言い、小柄なシンク横にある棚の上にマグカップを2つ並べる伊吹さん。
わたしは空いていた木製の椅子に腰を掛けると、アトリエを見渡し、あの絵を探した。
伊吹さんの代表作と書かれていた、峯岸さんの横顔に似たあの女性の絵。
すると、珈琲の良い香りが漂ってきた。