そっと、ぎゅっと抱きしめて

伊吹さんは両手にマグカップを持って来ると、真っ白で丸みがある方のマグカップをわたしに差し出し、「ミルクだけですよね。熱いので気を付けてくださいね。」と言った。

わたしはそれを両手で受け取り、「ありがとうございます。」と言った。

「俺は猫舌なので、ちょっと放置しときまーす。」

伊吹さんはそう言うと、自分の定位置であろう椅子に座ると、その横に置いてあるテーブル代わりの丸椅子に自分のマグカップを置いた。

「伊吹さんって、猫舌なんですね。」
「そうなんです。熱いのダメなんですよ。だから、いつも冷ましてる間に絵を描いてて、、、そして気付いた時には冷め過ぎて、ほぼアイス珈琲になってます。」

伊吹さんの言葉に笑うわたし。

すると、伊吹さんがわたしを見て、「あっ。」と言う。

「しずくさんって、笑うと可愛い。素敵な笑顔してますよ。」

そんなことを言われ、恥ずかしくなったわたしは珈琲を飲んで誤魔化す。

そして、熱い珈琲をそっと飲みながら視線を上に上げると、紫色の花の絵が飾ってあるのが目に入った。

「あ、あの紫色の花。伊吹さんのLINEのアイコンですよね。」
「気付きました?」
「はい。あの花、竜胆ですよね?」
「花の名前までは分かんないんですけど、綺麗だったので描いたんです。しずくさん、花に詳しいんですね。」
「一応、花屋の事務所で働いてるので。」
「へぇ〜!そうだったんですね!じゃあ、花が描きたくなったら、しずくさんにお願いしようかな。」

伊吹さんはそう言うと、足を組み微笑んだ。

< 13 / 62 >

この作品をシェア

pagetop