そっと、ぎゅっと抱きしめて
「じゃあ、次は俺がしずくさんに訊いてもいいですか?」
伊吹さんはそろそろ冷めた頃合いの珈琲が入ったマグカップを持つと、そう言った。
「はい、どうぞ。」
「ずっと気になってたんですけど、、、その左手。」
わたしは「あぁ。」と自分の左手に視線を落とした。
実はわたしは、いつも左手にサポーターをつけているのだ。
「怪我されてるんですか?」
「いえ、怪我ではないんですが、、、何歳かまでは覚えてないんですけど、小学生の頃に左手が腫れて痛くなったことがあって、それから指の関節があまり曲がらなくなってしまって。」
わたしはそう言うと、左手の指を自分の限界まで曲げて見せ、「グーが出来ないんです。」と言った。
「その時に病院には行かなかったんですか?」
「父は単身赴任で居なかったですし、母は父の再婚相手で実の母ではないので、わたしに興味がないみたいで放置されてました。だから、原因が分からないんです。」
「そんなぁ、、、。」
「大人になってから自分で病院に行ってみましたけど、そんな前のことの原因は分からないって言われました。当然ですよね。一応、リウマチと膠原病の検査をしましたけど、引っ掛かりませんでした。あと考えられるとしたら、自律神経の乱れとかストレスだって。」
わたしがそう話すと、伊吹さんは「ストレス、、、。」と呟き、もう湯気のたっていない珈琲を一口飲んだ。
「今でもたまに痛む時があるので、それでサポーターをつけてるんです。」
「、、、しずくさん、俺がこう言うのもアレですけど、ご自分で自覚してるんじゃないですか?ストレスの原因が何なのか。」
伊吹さんの言葉が胸に突き刺さる。
確かに自覚はしている。
ストレスの原因が家族にあることに。