そっと、ぎゅっと抱きしめて
「そうですね、、、伊吹さんの言う通り確かに自覚はしています。」
「もしかして、それでこないだ電車の前に飛び込もうとしたんですか?」
伊吹さんの言葉にわたしは黙り込む。
すると、伊吹さんは「あ、直球過ぎましたね。すいません、、、。」と俯いて言った。
「いえ、、、本当のことなので。自分が存在している意味が分からなくなってしまったんです。だから、、、。もう奴隷のような生活が嫌になってしまったんです。」
「今もご実家暮らしなんですか?」
「はい。」
「一人暮らしをした方がいいんじゃないですか?」
「わたしもそれを考えてはいるんですけど、給料の半分は母に取られてしまうので、なかなか貯金が貯まらなくて。」
わたしがそう言うと、伊吹さんはマグカップを丸椅子に置き、「それなら、俺に任せてください!」と言い、描き掛けの絵に立て掛けてあったスマホを手に取った。
「俺の友達に不動産屋の社長がいるんですよ。そいつに頼んでみます。」
「えっ、そんなわざわざ!」
すると、伊吹さんは電話をかけ始めた。
スピーカーにして、コール音が繰り返し鳴る。
「あいつ、忙しいかなぁ。」
伊吹さんがそう言った途端、コール音が鳴り止み、スマホから「もしもし。」と優しい男性の声が聞こえてきた。
「あ、和総?俺、俺!」
「オレオレ詐欺ですか?」
「ちげーよ!渚だよ!」
「分かってるって。渚、久しぶりだなぁ。どした?」
お互いの話しぶりから仲の良さが伝わってくる。
不動産屋の社長さんと友達なんて凄いなぁ。