そっと、ぎゅっと抱きしめて
「ちょっと今、物件探しててさ。」
「あれ、お前引っ越すの?」
「いや、俺じゃないんだ。俺の大事なお客さん。」
「へぇ〜、大事なお客さんねぇ。」
「それで、俺の実家の前に5階建てのマンションあるじゃん?あそこ、どっか空いてない?」
「あぁ、、、確か202なら空いてたかな。」
「じゃあ、そこ即入居でよろしく!確かオートロック付きだったよな?」
だんだん話が進んでいき、困惑するわたし。
わたしは伊吹さんに小声で「すぐには、お金用意するの難しいです。」と言った。
すると、伊吹さんは口パクで「大丈夫!」と言う。
「あぁ、オートロック付きだよ。」
「敷金、礼金とかは無しで良いよな?」
「まぁ、渚の大事なお客さんなら、仕方ないな。」
「サンキュッ!」
「渚がそこまで言うくらいだから、本気な人なんだろうしな。」
不動産屋の社長さんがそう言うと、伊吹さんは「あー!っと、猫バスの彼女は元気?さつきちゃんだっけ?」と慌てて何か話を逸らそうとしていた。
猫バスの彼女??さつきちゃん??
「お前、人の彼女の名前勝手に変えるなよ。エレナだよ。だいぶ体調も戻って元気だよ。」
「そっか、それなら良かった!今度、お礼に葡萄ジュース送っとくよ!」
「ありがとう、エレナが喜ぶよ。で、話戻すけど、即入居なら、すぐ鍵いるよな?」
「そうだな。」
「今日はちょっと無理だけど、明日なら仕事の合間に持って行けると思う。」
「マジ助かる!じゃあ、その他諸々はそっちでよろしく!」
「はいよ。じゃっ、明日な!」
電話が切れると、伊吹さんは「これでオッケー!」と言い、続けて「しずくさんの人生はしずくさんのものなんだから、大切にしないと。これから、自分の人生を楽しむ準備を始めよ!」と言ってくれたのだった。