そっと、ぎゅっと抱きしめて

わたしの引っ越しは、1週間後の土曜日となった。
土曜日なら、母も妹も朝早くから起きてくることはないので、その時間帯にこっそり家を出ることに決めたのだ。

それからわたしは、平日の夜、家事が終わり自分の時間が出来てから、少しずつ荷造りを始めた。

そうは言っても、わたしが持って行く物と言えば、服と化粧品、あとは米津◯師のCDたちくらいだ。

そんな大荷物になることはなく、キャリーバッグと旅行用の大きめのバッグ1つで収まった。

やっと、この家から出られるんだ。
こんな日がくるだなんて、夢にも思っていなかった。

あの時、電車の前に飛び込もうとして、伊吹さんが助けてくれなければ、今はないんだなぁ。

そう思うと、伊吹さんには感謝しかなかった。

わたしはこの家を出ていくことに、これっぽっちも未練も罪悪感もない。

土曜日が待ち遠しくて仕方がなかった。

わたしはいつも通りの毎日を送りながら、心の中でひっそりと引っ越しまでのカウントダウンをしていたのだった。

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