そっと、ぎゅっと抱きしめて

そして、引っ越し当日。

わたしは簡単な置き手紙と家の鍵を食卓テーブルの上に置くと、荷物を持ってこっそり家を出た。

「おはようございます。」

家の前には、車で迎えに来てくれた伊吹さんが居て、小声で挨拶をしてくれた。

「おはようございます。すみません、わざわざ家の前まで来ていただいて。」
「荷物があるんだから、1人では大変でしょう?」

そう言いながら、伊吹さんはわたしから荷物を受け取ると、バックドアを開け、荷物を積み込んだ。

「さぁ、行きましょうか。」
「はい。」

伊吹さんは助手席のドアを開けてくれ、わたしが乗り込むと、出来るだけ音が立たないように慎重にドアを閉め、それから運転席側に回ると、自分も車に乗り込んだ。

「あ、ゴーゴー幽◯船。」

車内に流れる音楽に気付き、わたしは言った。

「こないだ好きだって言ってたので、かけてみました。」

伊吹さんはそう言うと、車を出し、わたしの新居に向けて車を走らせてくれた。

< 19 / 62 >

この作品をシェア

pagetop