そっと、ぎゅっと抱きしめて
そして、引っ越し当日。
わたしは簡単な置き手紙と家の鍵を食卓テーブルの上に置くと、荷物を持ってこっそり家を出た。
「おはようございます。」
家の前には、車で迎えに来てくれた伊吹さんが居て、小声で挨拶をしてくれた。
「おはようございます。すみません、わざわざ家の前まで来ていただいて。」
「荷物があるんだから、1人では大変でしょう?」
そう言いながら、伊吹さんはわたしから荷物を受け取ると、バックドアを開け、荷物を積み込んだ。
「さぁ、行きましょうか。」
「はい。」
伊吹さんは助手席のドアを開けてくれ、わたしが乗り込むと、出来るだけ音が立たないように慎重にドアを閉め、それから運転席側に回ると、自分も車に乗り込んだ。
「あ、ゴーゴー幽◯船。」
車内に流れる音楽に気付き、わたしは言った。
「こないだ好きだって言ってたので、かけてみました。」
伊吹さんはそう言うと、車を出し、わたしの新居に向けて車を走らせてくれた。