そっと、ぎゅっと抱きしめて

わたしが帰宅すると、まず聞こえてくる一言目は、母の「遅いよ。早くご飯支度してよね。」だ。

わたしは今までで一度も「おかえり」なんて言われたことがない。

専門学生の妹も「お腹空いた〜。」とソファーでゴロゴロしながら、スマホをいじっている。

家事もしないでいつも家に居るだけの母は、わたしの実の母親ではない。
わたしが5歳の時に父が再婚した義母だ。

そして、妹はその間に生まれた畑違いの妹。

この人たちは、わたしのことを召使いか奴隷とでも思っているんだろうか。

それから、わたしの父はというと、単身赴任でほぼ家には帰って来ない。

わたしには味方が居ない。
妹が羨ましい。

わたしは本当なら、高校を卒業したら絵の勉強がしたかった。
小さい頃から絵を描くことが好きだったからだ。

しかし、母に反対され、「お前は働きなさい。」と言われたのだ。

妹はというと、美容師を目指し、専門学校に通っている。
好きな事が出来て、可愛がられている妹をわたしはずっと羨ましく思っていた。

「あんた、明日給料日だろ?ちゃんと金、渡しなさいよ。」
「わかってる。」

わたしが稼いだ給料の半分は、毎月母に取られて行く。

父からも生活費は貰っているはずなのに、何に遣っているのか分からない。

わたしはご飯支度を済ませると、自分は食べずに次は洗濯機を回し、乾いた洗濯物を片付ける。

わたしに休まる時間なんて無い。
こんな毎日がいつまで続くんだろう。

< 2 / 62 >

この作品をシェア

pagetop