そっと、ぎゅっと抱きしめて
そして、新居に到着すると、伊吹さんはわたしの荷物を運びながら、「こっちですよ。」と案内してくれた。
「こんな良いマンションを借りてしまって、本当に大丈夫なんでしょうか。」
わたしがちょっと不安になりながらそう言うと、伊吹さんは鍵でオートロックを解除し、中へ進みながら、「まだ築2年くらいだったはずです。ワンルームで申し訳ないんですけど、家賃は2万で良いって言ってましたよ。」と言った。
「2万?!こんな綺麗なマンションなのに?!」
「友人割引ってやつですよ。和総、あ、こないだ電話で話した友達なんですけど、今付き合ってる彼女にも本来なら9万の物件を5万で貸してましたからね。今は、同棲してるみたいですけど。」
わたしは伊吹さんの話に驚きながら、伊吹さんと共にエレベーターに乗り込んだ。
伊吹さんのお友達、何者?
そんな大きな会社の社長さんなのかな。
そんなことを思っていると、あっという間に2階に到着し、わたしが入居することになった202号室の目の前までやって来た。
伊吹さんは202号室のドアの鍵を開けると、引き抜いた鍵をわたしに差し出す。
「はい、新居の鍵ですよ。」
わたしはそれを受けると、伊吹さんが開けるドアの間から中を覗いた。
すると、わたしは「えっ?!」と驚いた。
何と、既に家具が揃えられていたのだ。
伊吹さんは先に中に入ると、「おぉ、さすが和総。センス良いなぁ。」と感心したように言った。