そっと、ぎゅっと抱きしめて

次の日の朝、わたしは誰よりも先に起きて朝食の用意をしてから仕事に出掛ける。

そして今日もギュウギュウに詰められた電車に揺られ、会社に向かう。

わたしが働く職場は地元に3店舗しかない花屋の事務所。

「おはようございます。」

出勤すると、いつもやる気の感じられない会計の須藤さんと新聞ばかり読んでいる竹中課長が居た。

すると、入り口のすぐ横にある棚の上に「ご自由にお持ちください」と手書きで書かれた紙がぶら下がった浅い箱があり、中にパンフレットが入っている事に気付いた。

わたしは、その1枚を手に取る。

「"いのちの美術展"。」

数人の画家が作品を出展している美術展らしい。

場所はそんなに遠くない。
今度の休みの日に行ってみようかな。

わたしはそのパンフレットを二つ折りにすると、バッグの中に入れた。

「あぁ、三波さん。珈琲淹れてくれる?」

やっとわたしの存在に気付き、老眼を額に引っ掛けながら竹中課長が言った。

「はい。」

わたしは、会社でも家と同じ。
雑用は全部わたしに回ってくる。

みんな、わたしを何だと思ってるの?

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