そっと、ぎゅっと抱きしめて
そして、次の休みの日。
わたしはバスに揺られ、あのパンフレットの美術展に向かっていた。
自分の為に出掛けるなんて久しぶりだ。
美術展に着くと、わたしが持っているパンフレットが大きくなったポスターが貼られており、わたしは500円でチケットを購入する。
中に入ると、空気が穏やかなで静かで、歩くとパンプスのヒールの音が響いた。
現実を忘れられる空間。
わたしは一つ一つの作品を、ゆっくりと目に焼き付けるように眺めていった。
テーマが"いのち"の美術展なだけあり、おくるみに包まる赤ちゃんの絵、皺が生きた年月を物語るデッサンで描かれた老夫婦の重なる手、水彩画の花瓶に飾られた花束など、そこにはたくさんの"いのち"が存在していた。
すると、わたしはある一点の作品に目が留まり、立ち止まった。
油絵で描かれた向日葵畑に囲まれた眩しいくらいに微笑む女性の絵。
その作品の下には、タイトルと作者の名前が書かれていた。
「"ひまわりと生きる"、伊吹渚、、、。」
そして、再び向日葵に囲まれる女性に視線を戻す。
幸せそうな微笑み。
この人は、きっと大切な人に愛されてたんだろうなぁ。
そう思いながら、わたしがその作品を見つめていると、右後ろから誰かが近付いて来る気配が感じた。
わたしがふと振り向くと、そこには1人の男性が立っていた。
あれ?この人、、、
「あ、やっぱり。俺のこと覚えてますか?」
わたしに話し掛けてきたその男性は、こないだわたしが電車に飛び込もうとした時にわたしの腕を引いた男性だった。