「小言が多い」と婚約破棄されましたが、それは全て言霊でした～誰とも話さないはずの寡黙の辺境伯様が心を開き、静かに優しく溺愛してくれます～
第４話：風邪ひいた（Side：シルヴィー①）
｢ゲホッ、ゴホッ。喉が痛いし頭が痛いぃ～｣
お義姉様を追い出してから数日後。
あたくしは激しい風邪をひいた。
今はオリオール家の一階にある自室で寝ている。
喉は水も飲めないほどヒリヒリとして痛く、頭は寝返りを打つだけでガンガンに痛い。
熱も高くて意識はぼんやりするばかり。
こんなにひどい風邪は久しぶりだ。
今まではどんなに夜更かししても、夜会で遊び回っても、一度も体調を崩さなかったのに……。
さっそく、新生"言霊館”をスタートさせるつもりが台無しだわ。
｢シルヴィーお嬢様、リュシアン様がいらっしゃいました｣
部屋の扉が叩かれるとともに、使用人の声が聞こえた。
風邪をひいてから、リュシアン様へ見舞いに来いと出した手紙が届いたらしい。
痛む喉を耐え、数々の男を虜にしてきたプリティボイスを出す。
｢早くご案内してぇ｣
扉が開き、あたくしの自慢の婚約者が現れた。
｢シ、シルヴィー……風邪をひいたんだって？ どうだ、具合は……｣
名家の跡取りで、野性的な見た目と物言いが力強い男性だ。
お姉様から奪った優越感も相まって、一瞬風邪の症状が消えたような気がする。
だけど、リュシアン様の全身が明らかになるにつれ、あたくしの心は強い衝撃に襲われた。
｢リュ、リュシアン様、その格好はどうされたのですかっ｣
ボロボロもボロボロ。
眼の周りには青い痣が浮き出て、腕や足は傷だらけ、高価な服も傷つき裾が擦り切れている。
まるで、盗賊や山賊に襲われた直後のようなひどい有様だ。
見たこともないくらいの疲れ果てた様子に、思わず言葉を失った。
唖然とするあたくしに、リュシアン様は力なく語る。
｢遠征に出たら、湖のほとりで魔物に襲われたんだよ……。あの場所では、今まで一度も襲われたことはなかったのに……｣
あたくしが風邪をひいてから程なくして、リュシアン様はダングルーム家の生業である魔物狩りの遠征に向かった。
そういえば、ちょうど今日が帰還の日だった。
｢魔物ですかぁ……。あたくしのお見舞いは、少しお休みになられてからでよかったですのにぃ……｣
｢着替える気力もなかったんだよ……｣
そう言うと、リュシアン様は疲れた様子であたくしのベッドの端に座る。
ちょ、ちょっと、どきなさいよ。
汚れるでしょうが。
｢リュシアン様ぁ、そちらの椅子の方が座りやすいと思いますわぁ｣
｢おまけに、なんだか熱っぽいな。魔物の毒を食らったのかもしれん。なぁ、薬ないか？｣
リュシアン様はあたくしの声など聞こえないかのように、額に手を当て深刻そうな顔で話す。
ベッドには汚れがつき、皺が寄り、風邪とは別に最悪の気分となった。
疲れた様子を見ていると、ふと気づく。
もしかして……あたくしの風邪はリュシアン様にうつされたんじゃないの？
そうよ、そうに決まっている。
きっと、リュシアン様は遠征に行く前に風邪をひいていて、あたくしにうつしたのだ。
怒りが湧いたとき、扉がコツコツと叩かれた。
｢失礼いたします、シルヴィー様｣
｢なに！ 今大事な話を……！｣
｢"言霊館”にモンディエール侯爵様がお見えになられていらっしゃいますが……｣
｢なん……ですって……？｣
使用人の言葉に、喉が詰まるようだった。
モンディエール侯爵。
六十歳ほどのエレガントな男性で、王国を代表する大変に高貴な貴族だ。
国内で十個ほどの農園を経営し、金や銀が産出される鉱山を三個も所持する。
伯爵家など比べものにならない……。
予期せぬ来訪者に驚く間も、使用人は扉の隙間から話を続ける。
｢以前からポーラ様と懇意にされていたようで、本日も詩の製作を頼みに来たとのことです。毎年、季節の変わり目になると眼が痛くなり、ポーラ様の詩で症状を和らげていたとおっしゃっています｣
モンディエール侯爵は……"言霊館”の常連だったのだ。
お義姉様めぇぇ、そんな大事なことを言わずに出て行くなんて。
重要な客の情報は、事前に伝えておくべきでしょう。
迷惑なお義姉様ね。
なんだか、新生"言霊館”の記念すべき最初の客が、お義姉様の名声で訪れたような気分だ。
腹立たしい…………ちょっと待ちなさい。
お義姉様への憎しみを募らせたとき、とある可能性に気づいた。
これはチャンスなのでは？ あたくしが侯爵夫人になれるチャンス……。
まさしく。
これは天啓なのだ。
あたくしに侯爵夫人になれという……。
さらに、侯爵令息は誰もが羨む美男子と聞く。
そうと決まれば話は早い。
｢お義姉様の代わりにあたくしが詩を書くわぁ。モンディエール侯爵には少し待つよう伝えなさぁい｣
ケープだけ羽織って"言霊館”に急ぐ。
頭が割れるように痛むも、侯爵夫人という肩書きを思えばこれくらい大した痛みではなかった。
離れの"言霊館”に裏口から入る。
そっと店内を覗くといた。
灰色のオールバックの男性――モンディエール侯爵が。
しかも……。
――令息までいるじゃないの！
父親より淡い灰色の髪の美男子。
リュシアン様とは正反対の優男だ。
持ってきたポーチから化粧道具を取り出し、さっと身だしなみを整える。
よし、これで侯爵令息のハートを掴むわよ。
カウンターから出て、二人の前に姿を現す。
｢こんにちはぁ、モンディエール侯爵ぅ。ようこそおいでくださいましたぁ｣
｢き、君は誰だね？ オリオール家の者か？ ポーラ嬢はいないのかね？｣
あたくしを見た瞬間、モンディエール侯爵は顔が引きつった。
いや、令息もそうだ。
……この反応はなに？
不快な感情を押し殺し、とっておきのプリティフェイスとプリティボイスを心がける。
大事なのはこれからよ。
｢あたくしはポーラの義妹、シルヴィーでございますぅ。お義姉様以上の言葉にまつわるスキルを持っておりますぅ。どうでしょうかぁ、あたくしに詩を……｣
｢いや、結構。ポーラ嬢がいいのだ｣
即答で断られた。
あたくしがむかついている間も、モンディエール侯爵はお義姉様の話をする。
それはそれは晴れやかな笑顔で。
｢ポーラ嬢は本当に素晴らしい。彼女のおかげで私は快適な暮らしを送れているようなものだ。王様にもお話ししたら、いずれご自身の持病も癒やしてほしいとおっしゃっていた｣
お義姉様の話をするときだけは嬉しそうだ。
モンディエール侯爵も令息も。
というか、王様にも話したってなに？
男爵家が王族の話題に上るなんてあり得ないでしょうが。
自分との扱いの差を見せつけられているようで、大変にイライラする。
ので、もう会話を終わらすことにした。
｢お義姉様は体調を崩しておりますわぁ。今日はとても詩の製作ができないそうですぅ｣
あんたらの大事なお義姉様はもういませんよ～だ。
追い出したことは伝えないでやる。
チッ、こうなったら出直しよ。
風邪を治してから、侯爵には会いに行けばいいわ。
そして、体調不良と聞くと、モンディエール侯爵と令息は初めて見るような不安そうな顔になった。
……この反応もまたイライラするわね。
｢なに、体調不良なのか？ ……それは心配だな。後で見舞いの品を持ってこさせよう。では、我々はこれで失礼する。ポーラ嬢によろしく言っておいてくれたまえ。息子を紹介したかったが、体調不良ではむしろ迷惑だろう｣
｢あっ、ちょっ！｣
追いかける間もなく、モンディエール侯爵たちはさっさと"言霊館”から出て行く。
窓から外の様子を窺うと、二人が残念そうに帰るのが見えた。
ふ、ふざけんじゃないわよ。
お義姉様に息子を紹介ですって！？
あたくしの実力があれば、確実にお義姉様以上の詩を書けたはず。
そうすれば、侯爵からよい評価をもらい、侯爵令息に乗り換えることだってできたかもしれないのに。
リュシアン様にうつされた風邪さえひいていなければ……。
怒りとやるせなさを抱き、自室に戻る。
ベッドの隅で座るリュシアン様を見ると、じわじわと今までの怒りがさらに強くなった。
｢あんたのせいよ！ あんたが風邪をうつしたから、チャンスを無駄にしちゃったじゃない！｣
怒りに耐え兼ねて叫んだ。
全てはこの男、リュシアン・ダングレームが悪いのだ。
リュシアン様はというと、あたくしの正当な糾弾に反抗してきた。
｢はぁ！？ 知らねえよ！ 俺は関係ねえだろうが！ なんでもかんでも人のせいにするな！｣
｢いたっ！｣
あろうことか、バシッと頭を叩かれた。
腹の底からマグマのように怒りが沸き上がる。
……もう我慢ならん。
｢あたくしの麗しい顔に傷がついたらどうすんだよ、この野郎！｣
｢ぐあああっ！｣
リュシアン様の腹に渾身の右ストレートをぶちかまし、うずくまってがら空きの首に勢いよく肘を叩き落とした。
二連撃を食らい、リュシアン様はぐったりと床に崩れ落ちる。
はい、あたくしの勝ち。
舐めんじゃないわよ、まったく。
風邪をひいていようが、これくらいは造作もないわ。
気絶したリュシアン様を窓から外に捨て、ベッドに潜り込む。
今に見てなさい、お義姉様。あんたの名前が残っているのもあと数日だわ。
風邪が治ったら本格的に"言霊館 ver.シルヴィー”を始動させる。
お義姉様の痕跡など、跡形もなく消し去ってやるんだから。
ゴホッ、ゴホッ。
お義姉様を追い出してから数日後。
あたくしは激しい風邪をひいた。
今はオリオール家の一階にある自室で寝ている。
喉は水も飲めないほどヒリヒリとして痛く、頭は寝返りを打つだけでガンガンに痛い。
熱も高くて意識はぼんやりするばかり。
こんなにひどい風邪は久しぶりだ。
今まではどんなに夜更かししても、夜会で遊び回っても、一度も体調を崩さなかったのに……。
さっそく、新生"言霊館”をスタートさせるつもりが台無しだわ。
｢シルヴィーお嬢様、リュシアン様がいらっしゃいました｣
部屋の扉が叩かれるとともに、使用人の声が聞こえた。
風邪をひいてから、リュシアン様へ見舞いに来いと出した手紙が届いたらしい。
痛む喉を耐え、数々の男を虜にしてきたプリティボイスを出す。
｢早くご案内してぇ｣
扉が開き、あたくしの自慢の婚約者が現れた。
｢シ、シルヴィー……風邪をひいたんだって？ どうだ、具合は……｣
名家の跡取りで、野性的な見た目と物言いが力強い男性だ。
お姉様から奪った優越感も相まって、一瞬風邪の症状が消えたような気がする。
だけど、リュシアン様の全身が明らかになるにつれ、あたくしの心は強い衝撃に襲われた。
｢リュ、リュシアン様、その格好はどうされたのですかっ｣
ボロボロもボロボロ。
眼の周りには青い痣が浮き出て、腕や足は傷だらけ、高価な服も傷つき裾が擦り切れている。
まるで、盗賊や山賊に襲われた直後のようなひどい有様だ。
見たこともないくらいの疲れ果てた様子に、思わず言葉を失った。
唖然とするあたくしに、リュシアン様は力なく語る。
｢遠征に出たら、湖のほとりで魔物に襲われたんだよ……。あの場所では、今まで一度も襲われたことはなかったのに……｣
あたくしが風邪をひいてから程なくして、リュシアン様はダングルーム家の生業である魔物狩りの遠征に向かった。
そういえば、ちょうど今日が帰還の日だった。
｢魔物ですかぁ……。あたくしのお見舞いは、少しお休みになられてからでよかったですのにぃ……｣
｢着替える気力もなかったんだよ……｣
そう言うと、リュシアン様は疲れた様子であたくしのベッドの端に座る。
ちょ、ちょっと、どきなさいよ。
汚れるでしょうが。
｢リュシアン様ぁ、そちらの椅子の方が座りやすいと思いますわぁ｣
｢おまけに、なんだか熱っぽいな。魔物の毒を食らったのかもしれん。なぁ、薬ないか？｣
リュシアン様はあたくしの声など聞こえないかのように、額に手を当て深刻そうな顔で話す。
ベッドには汚れがつき、皺が寄り、風邪とは別に最悪の気分となった。
疲れた様子を見ていると、ふと気づく。
もしかして……あたくしの風邪はリュシアン様にうつされたんじゃないの？
そうよ、そうに決まっている。
きっと、リュシアン様は遠征に行く前に風邪をひいていて、あたくしにうつしたのだ。
怒りが湧いたとき、扉がコツコツと叩かれた。
｢失礼いたします、シルヴィー様｣
｢なに！ 今大事な話を……！｣
｢"言霊館”にモンディエール侯爵様がお見えになられていらっしゃいますが……｣
｢なん……ですって……？｣
使用人の言葉に、喉が詰まるようだった。
モンディエール侯爵。
六十歳ほどのエレガントな男性で、王国を代表する大変に高貴な貴族だ。
国内で十個ほどの農園を経営し、金や銀が産出される鉱山を三個も所持する。
伯爵家など比べものにならない……。
予期せぬ来訪者に驚く間も、使用人は扉の隙間から話を続ける。
｢以前からポーラ様と懇意にされていたようで、本日も詩の製作を頼みに来たとのことです。毎年、季節の変わり目になると眼が痛くなり、ポーラ様の詩で症状を和らげていたとおっしゃっています｣
モンディエール侯爵は……"言霊館”の常連だったのだ。
お義姉様めぇぇ、そんな大事なことを言わずに出て行くなんて。
重要な客の情報は、事前に伝えておくべきでしょう。
迷惑なお義姉様ね。
なんだか、新生"言霊館”の記念すべき最初の客が、お義姉様の名声で訪れたような気分だ。
腹立たしい…………ちょっと待ちなさい。
お義姉様への憎しみを募らせたとき、とある可能性に気づいた。
これはチャンスなのでは？ あたくしが侯爵夫人になれるチャンス……。
まさしく。
これは天啓なのだ。
あたくしに侯爵夫人になれという……。
さらに、侯爵令息は誰もが羨む美男子と聞く。
そうと決まれば話は早い。
｢お義姉様の代わりにあたくしが詩を書くわぁ。モンディエール侯爵には少し待つよう伝えなさぁい｣
ケープだけ羽織って"言霊館”に急ぐ。
頭が割れるように痛むも、侯爵夫人という肩書きを思えばこれくらい大した痛みではなかった。
離れの"言霊館”に裏口から入る。
そっと店内を覗くといた。
灰色のオールバックの男性――モンディエール侯爵が。
しかも……。
――令息までいるじゃないの！
父親より淡い灰色の髪の美男子。
リュシアン様とは正反対の優男だ。
持ってきたポーチから化粧道具を取り出し、さっと身だしなみを整える。
よし、これで侯爵令息のハートを掴むわよ。
カウンターから出て、二人の前に姿を現す。
｢こんにちはぁ、モンディエール侯爵ぅ。ようこそおいでくださいましたぁ｣
｢き、君は誰だね？ オリオール家の者か？ ポーラ嬢はいないのかね？｣
あたくしを見た瞬間、モンディエール侯爵は顔が引きつった。
いや、令息もそうだ。
……この反応はなに？
不快な感情を押し殺し、とっておきのプリティフェイスとプリティボイスを心がける。
大事なのはこれからよ。
｢あたくしはポーラの義妹、シルヴィーでございますぅ。お義姉様以上の言葉にまつわるスキルを持っておりますぅ。どうでしょうかぁ、あたくしに詩を……｣
｢いや、結構。ポーラ嬢がいいのだ｣
即答で断られた。
あたくしがむかついている間も、モンディエール侯爵はお義姉様の話をする。
それはそれは晴れやかな笑顔で。
｢ポーラ嬢は本当に素晴らしい。彼女のおかげで私は快適な暮らしを送れているようなものだ。王様にもお話ししたら、いずれご自身の持病も癒やしてほしいとおっしゃっていた｣
お義姉様の話をするときだけは嬉しそうだ。
モンディエール侯爵も令息も。
というか、王様にも話したってなに？
男爵家が王族の話題に上るなんてあり得ないでしょうが。
自分との扱いの差を見せつけられているようで、大変にイライラする。
ので、もう会話を終わらすことにした。
｢お義姉様は体調を崩しておりますわぁ。今日はとても詩の製作ができないそうですぅ｣
あんたらの大事なお義姉様はもういませんよ～だ。
追い出したことは伝えないでやる。
チッ、こうなったら出直しよ。
風邪を治してから、侯爵には会いに行けばいいわ。
そして、体調不良と聞くと、モンディエール侯爵と令息は初めて見るような不安そうな顔になった。
……この反応もまたイライラするわね。
｢なに、体調不良なのか？ ……それは心配だな。後で見舞いの品を持ってこさせよう。では、我々はこれで失礼する。ポーラ嬢によろしく言っておいてくれたまえ。息子を紹介したかったが、体調不良ではむしろ迷惑だろう｣
｢あっ、ちょっ！｣
追いかける間もなく、モンディエール侯爵たちはさっさと"言霊館”から出て行く。
窓から外の様子を窺うと、二人が残念そうに帰るのが見えた。
ふ、ふざけんじゃないわよ。
お義姉様に息子を紹介ですって！？
あたくしの実力があれば、確実にお義姉様以上の詩を書けたはず。
そうすれば、侯爵からよい評価をもらい、侯爵令息に乗り換えることだってできたかもしれないのに。
リュシアン様にうつされた風邪さえひいていなければ……。
怒りとやるせなさを抱き、自室に戻る。
ベッドの隅で座るリュシアン様を見ると、じわじわと今までの怒りがさらに強くなった。
｢あんたのせいよ！ あんたが風邪をうつしたから、チャンスを無駄にしちゃったじゃない！｣
怒りに耐え兼ねて叫んだ。
全てはこの男、リュシアン・ダングレームが悪いのだ。
リュシアン様はというと、あたくしの正当な糾弾に反抗してきた。
｢はぁ！？ 知らねえよ！ 俺は関係ねえだろうが！ なんでもかんでも人のせいにするな！｣
｢いたっ！｣
あろうことか、バシッと頭を叩かれた。
腹の底からマグマのように怒りが沸き上がる。
……もう我慢ならん。
｢あたくしの麗しい顔に傷がついたらどうすんだよ、この野郎！｣
｢ぐあああっ！｣
リュシアン様の腹に渾身の右ストレートをぶちかまし、うずくまってがら空きの首に勢いよく肘を叩き落とした。
二連撃を食らい、リュシアン様はぐったりと床に崩れ落ちる。
はい、あたくしの勝ち。
舐めんじゃないわよ、まったく。
風邪をひいていようが、これくらいは造作もないわ。
気絶したリュシアン様を窓から外に捨て、ベッドに潜り込む。
今に見てなさい、お義姉様。あんたの名前が残っているのもあと数日だわ。
風邪が治ったら本格的に"言霊館 ver.シルヴィー”を始動させる。
お義姉様の痕跡など、跡形もなく消し去ってやるんだから。
ゴホッ、ゴホッ。
