「小言が多い」と婚約破棄されましたが、それは全て言霊でした~誰とも話さないはずの寡黙の辺境伯様が心を開き、静かに優しく溺愛してくれます~
第7話:肩凝り
『ポーラはブラッシングもうまいんだなぁ。心地良くて眠ってしまいそうだ』
「ありがとうございます。だいぶ慣れてきたからかもしれませんね」
『きっと、元々才能があったんだろうよ』
お庭でガルシオさんの身体にブラシを通す。
さっさっと腕を動かすたび、もふもふの毛は銀色に煌めく。
病気を癒してから、もう一週間ほどが経った。
特等メイドとしての仕事以外に、ガルシオさんご指名で新たにブラッシングの役割を命じれらたのだ。
午前中の昼前、日の当たるところで行うのが日課だ。
エヴァさんやアレン君と一緒に、お屋敷の管理を行う日々。
掃除も洗濯も楽しい。
お屋敷での生活にも慣れ、豊かな気持ちで仕事をさせていただいている。
「ブラッシングが終わりましたよ。……どうですか? まだ足りないところとかないですか?」
『いや、ないよ。ありがとう、ポーラ。毛がふさふさだと気分もいいな』
ガルシオさんはぐ~っと背中を伸ばす。
元気な姿が見られるようになって、私も本当に嬉しい。
ブラッシングの道具を片付けていたら、お屋敷からエヴァさんとアレン君が歩いてきた。
「ポーラちゃんにブラッシングしてもらったんですね。ふさふさで触りたくなっちゃいますよ」
「眩しいくらいの輝きで、お屋敷の中にも光が差し込むようでした」
『ちょっとくらいなら触ってもいいぞ』
「「いいんですか!? うわーい!」」
ふさふさな毛を触り、エヴァさんとアレン君は喜ぶ。
ガルシオさんもまた、さりげなく得意げな顔となる。
この光景もすっかり日常となっていた。
『じゃあ、俺はそろそろ森に戻るかな』
「「は~い」」
“霊気の森”へと、てくてく歩くガルシオさんを見送る。
お庭もいいけど、森の澄んだ空気がとても好きらしい。
「ポーラちゃん、今日はお花の手入れをしようか」
「はいっ、わかりましたっ」
エヴァさんの言葉に大きな声で返事する。
同い年でも、彼女は立派な先輩なのだった。
「ブラッシングの道具は僕が片付けておきますよ。また、お屋敷に戻るので」
「ありがとう、アレン君。じゃあ、お願いしようかな」
お言葉に甘え、アレン君に道具を預ける。
軽い物ばかりなので安心して渡せた。
お庭に行き、エヴァさんと一緒にお花を手入れする。
作業をしながらも、彼女はお花の種類をたくさん説明してくれた。
「この紫のお花は〈夜露チューリップ〉。空気中の水分を集める力が強くて、朝になるとたっぷりの露が溜まっているよ。こっちの黄色い花は〈飛びタンポポ〉。風が吹いていなくても、綿毛は自分で飛んでいくんだ」
花壇には森と同じように、多種多様なお花が育っている。
中には見知ったお花もあったけど、大部分はお屋敷に来て初めて見たものだった。
知らないものが多く、自然と気が引き締まる。
「どれも見たことないお花ばっかりだ……。もっと勉強しないと」
「たしか、書物庫にお花の図鑑もあったと思うよ」
「読まなきゃ」
【言霊】スキルを使うには日々の勉強が大切。
だから、わからないことがあれば、日頃からすぐ調べるようにしていた。
エヴァさんはお花の詳しい手入れの仕方も教えてくれる。
「萎れてきたお花はね、手で摘んだり鋏で切ったりするだけで復活するの」
そう言って、チョキチョキと鋏を動かす。
目の先っぽを取り除く“摘心”、鉢植えの余分な葉っぱや花を切り取る“刈り込み”、もう咲き終わってしまった茎をちょきんと切る“切り戻し”……。
お花をまた綺麗に咲かせる三つの方法だ。
新しい言葉が出てくるたび、心のノートにメモする。
お屋敷では毎日新たな発見があって楽しいね。
三十分も作業すると、切り取ったお花がこんもりと小さな山になるくらい集まった。
「エヴァさん、このお花たちはどうするの?」
「栄養になるからいつも花壇の土に埋めてるよ。もしくは森に撒いたりしてるかな」
「なるほど……」
たしかに、花びらは良い肥料になるだろう。
でも、集めたお花たちを見ると、すぐに捨ててしまうのはなんだかもったいない気がした。
「ねえ、摘み取ったお花をブーケにするのはどうかな。テーブルに飾ったりすると食卓が明るくなるかも」
以前”言霊館”で、割れてしまった壺を修復してほしい、という依頼があった。
調度品や室内の飾りつけに関する本を読んだとき、テーブルブーケについての記述を読んだのだ。
その本には絵も描かれており、和やかな気持ちになったのを今でもよく覚えている。
「いい案だね、ポーラちゃん。ご主人様も喜ぶと思う」
お庭に咲くお花は、どれも可愛くて綺麗だ。
ブーケにすれば季節感も感じられるし、枯れてしまうまで少しでも楽しめるだろう。
お花も嬉しいんじゃないかな。
そう思った時、エヴァさんが辛そうに肩を回しているのに気がついた。
回すたびゴキゴキと重い音が鳴る。
「……肩が痛いの?」
「まぁ、痛いというか凝ってる……って感じかな。なんか、疲れが溜まっているんだよね。自分でストレッチしたり、アレンにマッサージさせたりしてもなかなか治らないの」
エヴァさんは微笑みながら言うも、顔にはやや疲れが滲んでいた。
肩が凝っていては動きづらいだろうに……。
よし、今こそ【言霊】スキルの出番だ。
「だったら私が治してあげるよ」
「で、でも、もったいないよ。ポーラちゃんのスキルは、ご主人様やガルシオさんみたいな高貴な人たちのために使わないと」
私が言うと、エヴァさんは顔の前で手を振って遠慮した。
断る彼女の手をそっと握る。
「そんなこと言わないで。【言霊】スキルは誰かの役に立ってこそなんだから」
高貴だとか、高貴じゃないとか、そんなものは関係ない。
【言霊】は困っている人に使うべきスキルなのだ。
「ありがとうございます。だいぶ慣れてきたからかもしれませんね」
『きっと、元々才能があったんだろうよ』
お庭でガルシオさんの身体にブラシを通す。
さっさっと腕を動かすたび、もふもふの毛は銀色に煌めく。
病気を癒してから、もう一週間ほどが経った。
特等メイドとしての仕事以外に、ガルシオさんご指名で新たにブラッシングの役割を命じれらたのだ。
午前中の昼前、日の当たるところで行うのが日課だ。
エヴァさんやアレン君と一緒に、お屋敷の管理を行う日々。
掃除も洗濯も楽しい。
お屋敷での生活にも慣れ、豊かな気持ちで仕事をさせていただいている。
「ブラッシングが終わりましたよ。……どうですか? まだ足りないところとかないですか?」
『いや、ないよ。ありがとう、ポーラ。毛がふさふさだと気分もいいな』
ガルシオさんはぐ~っと背中を伸ばす。
元気な姿が見られるようになって、私も本当に嬉しい。
ブラッシングの道具を片付けていたら、お屋敷からエヴァさんとアレン君が歩いてきた。
「ポーラちゃんにブラッシングしてもらったんですね。ふさふさで触りたくなっちゃいますよ」
「眩しいくらいの輝きで、お屋敷の中にも光が差し込むようでした」
『ちょっとくらいなら触ってもいいぞ』
「「いいんですか!? うわーい!」」
ふさふさな毛を触り、エヴァさんとアレン君は喜ぶ。
ガルシオさんもまた、さりげなく得意げな顔となる。
この光景もすっかり日常となっていた。
『じゃあ、俺はそろそろ森に戻るかな』
「「は~い」」
“霊気の森”へと、てくてく歩くガルシオさんを見送る。
お庭もいいけど、森の澄んだ空気がとても好きらしい。
「ポーラちゃん、今日はお花の手入れをしようか」
「はいっ、わかりましたっ」
エヴァさんの言葉に大きな声で返事する。
同い年でも、彼女は立派な先輩なのだった。
「ブラッシングの道具は僕が片付けておきますよ。また、お屋敷に戻るので」
「ありがとう、アレン君。じゃあ、お願いしようかな」
お言葉に甘え、アレン君に道具を預ける。
軽い物ばかりなので安心して渡せた。
お庭に行き、エヴァさんと一緒にお花を手入れする。
作業をしながらも、彼女はお花の種類をたくさん説明してくれた。
「この紫のお花は〈夜露チューリップ〉。空気中の水分を集める力が強くて、朝になるとたっぷりの露が溜まっているよ。こっちの黄色い花は〈飛びタンポポ〉。風が吹いていなくても、綿毛は自分で飛んでいくんだ」
花壇には森と同じように、多種多様なお花が育っている。
中には見知ったお花もあったけど、大部分はお屋敷に来て初めて見たものだった。
知らないものが多く、自然と気が引き締まる。
「どれも見たことないお花ばっかりだ……。もっと勉強しないと」
「たしか、書物庫にお花の図鑑もあったと思うよ」
「読まなきゃ」
【言霊】スキルを使うには日々の勉強が大切。
だから、わからないことがあれば、日頃からすぐ調べるようにしていた。
エヴァさんはお花の詳しい手入れの仕方も教えてくれる。
「萎れてきたお花はね、手で摘んだり鋏で切ったりするだけで復活するの」
そう言って、チョキチョキと鋏を動かす。
目の先っぽを取り除く“摘心”、鉢植えの余分な葉っぱや花を切り取る“刈り込み”、もう咲き終わってしまった茎をちょきんと切る“切り戻し”……。
お花をまた綺麗に咲かせる三つの方法だ。
新しい言葉が出てくるたび、心のノートにメモする。
お屋敷では毎日新たな発見があって楽しいね。
三十分も作業すると、切り取ったお花がこんもりと小さな山になるくらい集まった。
「エヴァさん、このお花たちはどうするの?」
「栄養になるからいつも花壇の土に埋めてるよ。もしくは森に撒いたりしてるかな」
「なるほど……」
たしかに、花びらは良い肥料になるだろう。
でも、集めたお花たちを見ると、すぐに捨ててしまうのはなんだかもったいない気がした。
「ねえ、摘み取ったお花をブーケにするのはどうかな。テーブルに飾ったりすると食卓が明るくなるかも」
以前”言霊館”で、割れてしまった壺を修復してほしい、という依頼があった。
調度品や室内の飾りつけに関する本を読んだとき、テーブルブーケについての記述を読んだのだ。
その本には絵も描かれており、和やかな気持ちになったのを今でもよく覚えている。
「いい案だね、ポーラちゃん。ご主人様も喜ぶと思う」
お庭に咲くお花は、どれも可愛くて綺麗だ。
ブーケにすれば季節感も感じられるし、枯れてしまうまで少しでも楽しめるだろう。
お花も嬉しいんじゃないかな。
そう思った時、エヴァさんが辛そうに肩を回しているのに気がついた。
回すたびゴキゴキと重い音が鳴る。
「……肩が痛いの?」
「まぁ、痛いというか凝ってる……って感じかな。なんか、疲れが溜まっているんだよね。自分でストレッチしたり、アレンにマッサージさせたりしてもなかなか治らないの」
エヴァさんは微笑みながら言うも、顔にはやや疲れが滲んでいた。
肩が凝っていては動きづらいだろうに……。
よし、今こそ【言霊】スキルの出番だ。
「だったら私が治してあげるよ」
「で、でも、もったいないよ。ポーラちゃんのスキルは、ご主人様やガルシオさんみたいな高貴な人たちのために使わないと」
私が言うと、エヴァさんは顔の前で手を振って遠慮した。
断る彼女の手をそっと握る。
「そんなこと言わないで。【言霊】スキルは誰かの役に立ってこそなんだから」
高貴だとか、高貴じゃないとか、そんなものは関係ない。
【言霊】は困っている人に使うべきスキルなのだ。