「小言が多い」と婚約破棄されましたが、それは全て言霊でした~誰とも話さないはずの寡黙の辺境伯様が心を開き、静かに優しく溺愛してくれます~

第8話:ブーケ

「じゃあ……お願いしようかな。薬草を貼ったりしてもなかなか良くならないの」
「私に任せて。キレイサッパリ解消してみせるからね」
「ポーラちゃんがいると心強いなぁ」

 お屋敷に来てから、エヴェちゃんには本当にたくさんのことを教えてもらっている。
 だから、少しでも恩返しがしたかった。

「詩を書く前に、ちょっと肩凝りの状態を確認させてもらえる? よく把握するほど精度が上がるから」
「もちろん、どうぞ」

 エヴァさんの両肩に手を添えて、ちょっと揉んでみる。
 まるで石のように硬く凝っていた。
 これは大変だ。
 さぞかし、腕も動かし辛いことだろう。
 辞書を開き、羽ペンを走らすこと数分。
 詩が書けた。

「それでは、詩を詠いたいと思います」
「楽しみ~」

 エヴァさんの肩凝りが治りますように……。
 そう願いを込めて詩を詠う。


――
 不安を胸に訪れたお屋敷
 最初に出会ったのがあなた
 佇まいは凛として
 内に秘めるは豊かな情緒

 私の不安が消えたのは
 あなたのおかげ
 いつも私を助けてくれる
 そんなあなたが私は大好き

 あなたの肩にはお化けがいるね
 のしかかって動きを止める
 悪いお化け

 でもお化けがいるのはこの時までだよ
 今度は私が助ける番

 私の大切な友人
 自由よ戻れ
――


 詩を詠い終わると、エヴァさんの全身、特に肩の周りに白い光が集まった。
 うまくいくか、ドキドキしながら見守る。
 エヴァさんはというと、徐々にその顔がうっとりとしてきた。
 ぽわぁ~とした表情で宙を見る。

「なんか……すごい心地良いよ。お風呂に入っているみたいな温かさ……」

 しばらくした後、白い光は静かに消えた。

「ど、どうかな? 肩凝りが治っているといいんだけど……うわっ」
「肩が……軽いっ! 軽いよ、ポーラちゃん! こんなに軽いのは久しぶりもいいところっ!」

 エヴァさんはぐるぐるぐるっ! と勢いよく肩を回す。
 先ほどまでの辛そうな様子からは考えられない。
 治ってよかったと、ホッとしながら話す。

「きっと、疲れが溜まっていたんだろうね。また肩が凝ってきたら教えて。これからは私も手伝うから、エヴァさんを肩凝りになんかさせないよ」
「……ポーラちゃぁん」

 そう言うと、エヴァさんは瞳がうるうるしてしまった。
 何はともあれ、お庭の手入れを再開する。
 萎れそうなお花を摘み、余分な葉っぱや茎を切る。
〈夜露チューリップ〉に〈飛びタンポポ〉、ハーブのような爽やかな香りの〈ハーブパンジー〉、日が暮れると光り出す〈ヒカリアネモネ〉……などなど、色んな種類のお花が盛りだくさん集まった。
 一度お屋敷に持っていき、いくつかの花瓶に分けて入れる。
 あっという間に、お庭の花で作った特製テーブルブーケができた。
 思った以上に綺麗で、私とエヴァさんはしばし見とれてしまった。

「なんだか、花壇がそのまま移動したみたいだよ。ルイ様も喜んでくださるかなぁ」
「喜ぶに決まってるよ。こんなに綺麗なんだから。ポーラちゃんのアイデアはお見事だね」

 食堂のテーブルに特製ブーケを飾っていると、ちょうどルイ様がいらっしゃった。

〔ご苦労、二人とも。……ほう、綺麗な花ではないか。庭に咲いていたものか?〕

 魔法文字の問いかけに、エヴァさんが姿勢を正して答える。

「はい、いつもは森や土に捨ててしまうのですが、ポーラちゃんの案でテーブルブーケにしてみました」
〔それは素晴らしいアイデアだ。ポーラ、とても美しい。……いや、花のことだが〕
「ありがとうございます、ルイ様」

 ルイ様も嬉しそうにブーケを見てはお花を撫でる。
 喜んでくださったみたいで良かった、というところで、エヴァさんが興奮した様子で話し始める。

「聞いてくださいませ、ご主人様。ポーラちゃんが【言霊】スキルで肩凝りを治してくださったのです! おかげで自由自在に動かせるようになりました!」
〔そうか、良かったじゃないか〕
「どんな薬草やストレッチより効果的でした! しかもすごく心地いい感覚で……」

 エヴァさんはとうとうと、【言霊】スキルの素晴らしさを話してくれる。
 ルイ様は話を聞きながら、そっと私の前に魔法文字を書いた。

〔これからも……花を飾ってくれ〕
「はい、かしこまりました!」

 元気よく返事する。
 ルイ様は相変わらず無表情だけど、私には仄かな笑みが浮かんでいるのが見えた。
 私たちの会話を聞きながら、テーブルブーケはいつまでも誇らしげに咲き誇っていた。
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