虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~

「クラリス様をお連れいたしました」


 リビアがそう王との謁見の間らしき扉の前で声を掛けると、「入れ」と地に響くような低音が返ってきた。

 扉を開けてくれたリビアの横を通り、私はゼウラウス国王の前へとのそのそとやって来る。

 ゼウラウス国王は、荘厳な真っ白な髭を蓄え、王座に腰を降ろしている。


 その右隣には、ふわふわの金の髪をなびかせる美しい女性。

 おそらく、ゼウラウス国王の妃である、ミラ王妃だ。


 そして左隣には、綺麗な銀髪の若い男性。

 この方が、レオナルド・サイラス様……?

 ルプス帝国国王の第一王子であり、帝国軍第一軍事部隊隊長。


 その名はアレス国でも有名だ。

 クールと言えば聞こえはいいけれど、平気で人の命を奪う惨忍で冷酷な男。

 釣り気味の目に、白い肌。

 見た目も氷のように冷たい印象を受ける。

 その冷たい目が、私を睨みつけるように凝視していた。

 殺されるんだわ。

 私は咄嗟にそう思った。

 こんな怖そうな男性が、妻を大事にするとは思えない。そもそも結婚など望んでいなかったのではないかと思う。

 やはり結婚は口実…。私は、ここで死ぬのね…。


「クラリス・フォートレット王女」

 ゼウラウス国王の声が王の間に響く。

 その声にびくっと肩を揺らしてしまう私。


「は、はい…」


 何を言われても、もう覚悟は出来ている。

 さようなら、お父様お母様。そしてアレス国のみんな。

 お世辞にも楽しい人生とは言えなかったけれど、この世に生を受けられたこと、神に感謝いたします……。

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