虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~
思いっきり頬っぺたをつねってみる。
「いひゃい…」
当然のことながら、これは現実のようである。
現実であるならば、これはドッキリ、ということはないだろうか?
人質の私を油断させ、実は私の知らないところでアレス国が今にも滅ぼされそうになっている、とか…。
しかし私を騙すことに、ルプス側に何のメリットがあるというのだろうか。
「…本当に、…私を妻として迎え入れようとしている…?」
ゼウラウス国王もミラ王妃も、嘘を付いているようには見えなかった。
私なんかに他人の嘘を見抜く力なんてないけれども…。でも…。
「温かかったな……」
二人に抱きしめられたとき、すごく温かかった。
物理的な温度だけではなくて、本当に歓迎してくれているかのような、優しい温かさ。
私は鼻まで浴槽に浸かり、ぶくぶくと温かな世界を味わう。
これが、本当のことならいいのに……。
優しい人達に囲まれて、優しい世界で穏やかに生きたい。
私の願いは、ただそれだけ。
けれどその願いを抱くことすら、私には罰当たりなことなのだろう。
風呂を出ると、リビアが丁寧に髪を乾かしてくれた。
少しして運ばれてきた夕ご飯は、とても温かくて美味しかった。
こんな贅沢な暮らし、私なんかがしていいのだろうかと時々リビアの顔を窺っていたけれど、リビアは「ルプスの料理、お口に合いましたか?お魚なんて身がぷりっぷりでしょう!」だとか、「あーんしましょうか?」とか、とにかく私に優しかった。
こんな優しい人が、私を騙しているとは考えにくい。
でも、でも、と現状をなかなか受け入れられない自分がいた。