虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~

 お腹がいっぱいになると、急に眠気がやってきた。

 暖かく美味しい料理をお腹いっぱいに食べたのと、長旅で疲れたのかもしれない。

 私はあまりの瞼の重さに耐えきれなくなって、大きな天蓋付きベッドへと雪崩れ込んだ。

 リビアが優しく布団を掛けてくれたまでは憶えているけれど、以降の記憶はなかった。




 次にふと目を覚ましたのは、なんだか冷たい風を感じたような気がしたからだ。

 目を開けると部屋の中は真っ暗で、月明かりだけが辺りを照らしていた。

 深夜に月が見られることなんて、アレスでは滅多になかった。

 アレスはこの時期、吹雪に覆われることが多く、いつも薄暗かったから。

 その窓際に人影があるように見えた。


 …?誰だろう…?


 寝ぼけ眼で少し身を起こすと、窓の外を眺めていた人影が、ゆっくりとこちらを振り返った。


「…ああ、起こしてしまったか…」

「ひ…っ…」


 振り返った人物はゆっくりとこちらにやってきた。

 そうして私のベッドへと手を付くと、至近距離で私の顔を見つめる。

 私は恐怖で身体が動かなくなっていた。


 れ、レオナルド殿下……!


 氷のように冷たい目と、にこりともしない表情が、私を射抜くように見つめている。

 頭の中で、先程のゼウラウス国王の言葉がこだまする。


『レオもようやくクラリス王女に会えて喜んでおるわい』


 やっぱりそんなわけない……!!


 目の前にいるレオナルド殿下は、今にも私を殺しそうな狂喜に満ちた表情をしている。

 そんな彼が、私に会えて喜んでいるわけがない。

 誰がどう見たって、今にも私を殺めようとしているようにしか見えない。


「クラリス・フォートレット」

「は、はいっ……」


 殺される…っ、そう覚悟を決める。

「明日、私の部屋まで来てくれ」
「え…?」
「話をしよう」

 その言葉とともに細められた目に、ああ、私は明日死ぬのだと悟った。


「おやすみ」


 そう言って部屋を出て行くレオナルド殿下の背中を見送る。


 …やっぱり私は、殺されるんだわ…。

 レオナルド殿下のあの冷たく鋭い目。

 私を生きては帰さないと言わんばかりの、冷たく狂気に満ちた目。


「束の間の休息…だったのね…」


 アレスを出た時に、覚悟は決めていた。

 やはり私なんかが、幸せになれるはずなんてなかったのだ。


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