虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~
午後のお茶の時間。
ついに殿下の元へと足を運んだ。
日中は職務で城を出ていたようで会うことができず、この時間になってしまった。
レオナルド殿下が戻るまでの時間、私はただただその時が来るまで部屋で静かに待ち続けた。
何をするでもなく、時に身を任せながら。
頭痛は酷くなる一方だったけれど、そんなことを気にしている場合ではない。
告げられる言葉は大体予想できるけれど、なんと言われるのだろうか。
「貴様の処刑日が決まった」、「お前にはここで死んでもらう」、「汚らわしいアレスの血め」。
どれもレオナルド殿下なら言いかねない。
何も言わずに殺される、というパターンもあるのかもしれない。
ああ、もうどうせ死ぬのだ。言葉などどうでもいい。
この酷すぎる頭痛をどうにかしてほしい…。
私は小さく二回扉をノックして、レオナルド殿下の職務室に足を踏み入れた。
「…クラリスです…失礼、いたします…」
机に向かっていたレオナルド殿下は顔を上げて、こちらに視線を向けた。
「ああ、来たか。そこに座ってくれ」
「…はい…」
仕事机の前にある、応接用のソファへと腰を降ろすと、向かいにレオナルド殿下が座った。
こちらに視線を投げる殿下の目は、やはり今にでも私を殺さんとするかのような鋭く冷たい視線だった。
コンコン、と扉がノックされ、一人の侍女が部屋に入ってくる。
「失礼いたします。お茶の準備をさせていただきます」
「ああ」
こんな時までお茶だなんて、なんて悠長なのかしら…それともこれが俗に言う最後の晩餐というものなのかしら…。
侍女は紅茶を私とレオナルド殿下の前へと置き、その中心にバターのいい香りをさせるクッキーの乗ったお皿を置いた。
「ありがとう」
レオナルド殿下が表情一つ変えずに侍女へと礼を述べると、侍女はにこやかに退出した。
殿下は紅茶を一口含むと、私へと向き直る。
ああ、いよいよ……。