虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~
「クラリス、あんた料理好きだったわよね?」
とある日の午後。
急に呼び出されたと思ったら、マリア姉様にそんなことを言われた。
「え?あ、はい…作るのは、好きですけど…」
「このシフォンケーキ激まずなの!これを作った侍女はクビね!」
隣でユリア姉様が言った言葉に、傍に立っていた侍女がびくりと肩を揺らした。
「クラリス、あんたが代わりに作ってみて」
「え?私がですか…?」
「そうだって言ってんでしょ?いいから早く作ってきなさいよ!」
マリア姉様とユリア姉様の言葉に、私は慌てて厨房へ向かった。
この城に来た時こそ、お義母様もお姉様方も優しかったのだけれど、私に対する態度は日に日に酷くなっていった。
いつしかクリスティーナお義母様が、お姉様達に言い聞かせているのを聞いてしまったことがある。
「いい?二人共。クラリスにこの国を取られては駄目よ。マリア、ユリア、貴女達がこのアレス国を支配するの。貴女達こそが、この国の正当な後継者なの。間違ってもクラリスなんかにこの国を渡しては駄目。あんな下卑た女の子供なんて、碌な王にならないのだから」
その言葉を聞いた時、ああ、この新しいお母様は、決して私を愛してはくれないんだろうな、と幼心に気が付いてしまった。
その頃からだ。
お義母様やお姉様が私にほんの少し使っていたであろう気遣いすらもなくなったのは。
「うーん、まぁまぁね」
「侍女よりマシって程度」
私の作ったシフォンケーキと紅茶を品もなくずずずと啜りながら、お姉様達は私の作ったお菓子をそう評価した。
「まぁいいわ、今度からあんたが作りなさい」
「え?」
「え、じゃないわよ!あんたが私達のご飯作れって言ってんの!何度も言わせないで」
マリア姉様とユリア姉様二人から睨まれて、私は文字通り蛇に睨まれた蛙状態だった。