虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~
「そう口いっぱいにスイーツを頬張り、クリームだらけの口の周りを気にすることもなく笑った君に、私は恋をした。いつか立派な男として成長し、君を守れるようになったら、君を妻に迎えようと、そう決意したのだ」
レオナルド殿下が妻を取らなかったのは、機を窺っていたかららしい。
話を聞き終えた私は、またしてもぽかんと口を開けていた。
「話、作りました?」
「そんなわけないだろう」
どうやら本当のことらしい。
私にはそんな記憶、これっぽっちもないのだけれど。
私が五歳の頃というと、まだ母が生きていた頃だ。
その頃の私はきっと、何も苦しいこともなくて、ただただ平穏に、この先も自分がアレスを背負って立っていくものだと思っていた頃だろう。
今のようにネガティブな考え方もすることはなくて、純粋な子供だった頃の話だ。
「そう、でしたか……」
にわかには信じがたいけれど、いつも冷たそうな表情を浮かべているレオナルド殿下が、本当に照れくさそうな顔をしていたので、嘘ではないのだと思う…多分…。
レオナルド殿下は、もしかしてそんな小さい頃から私のことを想ってくれていたというの?
ただの一度きりしか会ったことのない、そんな通りすがりのスイーツ好きの私のことなんかを?ずっと…?
殿下はわざとらしくこほんと咳払いすると、私の目を真っ直ぐに見つめる。
「そういうわけだから、君には絶対に私の妻になってもらう」
「……はい…」
真剣な瞳に見つめられて、私の口は勝手にそう返事をしていた。
って、なに勝手に承諾しちゃっているの私!
レオナルド殿下はほっとしたような、嬉しそうな表情をしていた…ような気がする…。
「さて、今日のところはこのくらいにしておこう」
「え?」
レオナルド殿下は立ち上がると、私の傍までやってきて急に横抱きに抱え上げた。
「なっ、で、殿下っ!?なにをなさるのですかっ!?」
「随分と顔色が悪い。部屋まで連れて行く。今日はもう休め」
「わっ、分かりましたっ!ですが、自分で歩けますからっ」
確かに今朝から頭はぼーっとするし頭痛も酷かったけれど、レオナルド殿下に抱えられて、ますます身体が熱くなってきたように感じる。
もしかしたら熱が出てきたのかも…。
「うっ…」
殿下の腕の中でもがいていた私は、あまりの倦怠感に大人しくするしかなかった。