虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~
どうやらあの凶悪なほどに大音量のハンドベルは、レオナルド殿下を呼ぶためのものだったらしい。
一侍女が一国を担う次期国王をハンドベル一つで呼ぶとは、なかなかに極刑ものであるように思うが当のレオナルド殿下は特になにも思っていないらしかった。
ここに来てから薄々感じていることではあったけれど、王族や侍女や召使の身分差など関係なく、この城は一つの家族のような気さくさがある。
侍女であるリビアも、ゼウラウス国王やレオナルド殿下に敬意は払いつつも、物怖じすることなく接しているし、それを国王や殿下も良しとしている。
これがルプス帝国の在り方、なのかしら…。
聞いていたルプスのイメージとはかなりかけ離れているようにも思う。
アレスでは考えられないようなことばかりだ。
やはりその国を真に理解するには、まだまだやることがありそうだった。
レオナルド殿下と私が同じように首を傾げているようすを見て、リビアがこほんと説明を始める。
「殿下、お呼び立てして申し訳ございません。クラリス様があまりにネガティブで自分を卑下してばかりでおいででございましたので、ここはびしっと殿下から仰ってくださいませ」
「びしっと、とは?」
「もうっ!クラリス様のことが好きー!とか愛してるー!とかそういうことですっ!まったく殿下は本当に乙女心が分からないのですからっ!私は退出いたしますので、あとはしっかり!ですよ!」
やはり少しお母さんのような態度のリビアが部屋を出て行って、私とレオナルド殿下の二人が残された。
レオナルド殿下は少し気まずそうに、ベッドに腰を降ろした。
「クラリス、体調はどうだ?」
「え、あ、もうすっかり、大丈夫です…」
「そうか、よかった」
ほっと安堵の表情を見せる殿下に、私はぽつりと言ってしまった。
「殿下は、思ったよりも表情豊かな方なのですね…」
その言葉に、レオナルド殿下は少し表情を引き締める。
「どこがだ。不愛想だの怖いだのよく言われる」
確かに会ってすぐは私もそう思った。
顔立ちから冷たくきついように見えるからだ。
しかしその実、こうして私のために飛んできてくれるくらいには、優しさも持ち合わせている。
私のことを、本当に大事にしようとしてくれている…?
そんな都合の良い考えが浮かんでしまい、私は大きく頭を振る。
そんなわけない。そんな人、いるわけがない。
私は愛されてこなかった。
きっとこの先も、愛されることなんて、決してない。