虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~


 また少し時が経ち、アレス国の寒さが厳しくなってきた時のことだ。

 何事にも無関心なお父様が、焦ったように隣国の会談から帰って来た。

 ここ数日、お父様は周辺国の国王たちが集まる、首脳会議へと出席していた。

 定期的に行われるこの会議では、各国の情勢や資源の問題などが話し合われる。

 ここ数年は大きな戦争もなく、特に重大な議題もなかったはずなのだけれど、お父様の稀有な慌てように、城内は色めき立った。


「サビウス様。いかがなされたのです?そのように慌てて」


 お義母様が恐る恐るお父様に声を掛けた。

 お土産を期待してやってきたマリア姉様にユリア姉様も、不思議そうにお父様を見ている。

 侍女たちと掃除をしていた私も、城内の騒がしさに気が付き、広間へとやってきた。

 お父様は険しい顔をしながらも、ようやく重い口を開いた。


「まもなく、戦争が始まる」


 その一言に騒然とする場内。


「せ、せんそう…?」


 戦争を経験したことのない双子の姉様達は、お父様の言葉にきょとんとした顔をしている。

 もちろん私も経験したことはないけれど、歴史の文献での知識くらいはある。

 しかしこんな小さな国に攻め入ろうとは、どこの国だろうか?

 クリスティーナお義母様は、震える唇でお父様へ質問を投げかける。


「ど、どこの国がそんな…」

「ルプス帝国だ」

「ルプス…ですって…!?」


 お義母様は目を見開いて、愕然としている。

 私も目をぱちくりとさせてしまった。

 話に置いて行かれている姉様方は、「ルプスってどこ?」「聞いたことないけど」などと呟いている。

 私はお姉様方に向かって小さく説明した。


「る、ルプス帝国は、このアレス国の南西に位置する国であり、周辺国随一の軍事国家です…。噂によるとルプスに喧嘩を売った国は、容赦なく国家滅亡に追い込まれるとか…。世界でも屈指の戦闘民族からなる国だと言われています…」


 私の説明にお姉様方もようやく事の重大さを理解したのか、二人そっくりに顔を引きつらせている。

 私もそのように聞いたことがある程度だけれど、小さなアレス国が太刀打ちできるような国ではない。

 驚きと恐怖でなにも言えなくなっている私達姉妹をよそに、お義母様が口を開いた。


「あ、あなた…どうしてそのようなことに……」


 お義母様の疑問は至極もっともである。

 アレス国とルプス国は近隣国であり、国同士の仲はそれほど悪いものではなかったように思う。

 急に戦争となるような理由が思いつかなかった。

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