虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~
2章 あれ?なんか思ってた人質生活と違う?
出国の日。
その日はあっという間にやってきてしまった。
持ち物は使い古したお洋服と少しの小物。小さな鞄一つに入り切ってしまうようなものだけだった。
「クラリスお嬢様、お元気で」
見送りに来てくれたのは、数人の侍女達だけ。
お義母様やお姉様、お父様の姿すらそこにはなかった。
「ありがとう、みんなも元気で…」
後ろ髪を引かれることもなく、私は城を出た。
「さようなら、アレス」
私の生まれ育った国。
さようなら、お母様。
用意してくれた馬車に身を任せながら、私はルプス帝国に向かった。
気が付けばアレス国周辺を覆っていた吹雪を抜け、暖かな日差しが降り注いでいる。
小さくなっていくお城を見ながら、やっぱり何の感情も沸いてこなかった。
お義母様もお姉様も、お父様だって私のことが嫌い。
あそこには私なんかいない方がいい。その方が、みんな幸せなんだ…。
これから私はどうなるのだろう。
交渉のために使われた私が、ルプスでいい扱いを受けるとも思えない。
表向きは友好のために嫁ぐことになってはいるけれど、もしかしたら人質や、あるいは奴隷として扱われるのかもしれない。
きっとそうだ、そっちの方が頷ける。
だって、私なんかを妻に迎えようだなんて、そんなことあるわけがないもの。
幸せな結婚はあり得ない。
相手は軍事国家だ。
もしかしたら命さえ危ないのかもしれない。
私は漠然とそんなことを考えながら、馬車に揺られ続けた。