虐げられてきたネガティブ令嬢は、嫁ぎ先の敵国で何故か溺愛されています~ネガティブな私がちょっぴりポジティブになるまで~
数時間馬車に揺られ、ルプス帝国に到着する頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
アレス国から着てきていたもこもこのコートが少し暑く感じるくらいには、ルプスはとても温暖な気候だった。
ルプス帝国の中心である国王が住まう城へと到着し、馬車を降りた私はその目に映る光景に目を見開いた。
「ようこそ、クラリス・フォートレット王女」
ずらりと並んだ侍女や執事達が、私に向かって頭を下げる。
「え、えっと…?」
衛兵らしき人々も集まっているが、皆一様に笑顔である。
これは、どういう状況…??
アレスから人質、あるいは生贄という認識でやってきたのだが、ルプス側の対応は私の想像の斜め上を行くものだった。
これではまるで、私が本当に妻として歓迎されているかのような…?
いえいえ!油断してはだめ。これはルプス側の何かの策略なのかもしれない。
私を油断させ、またアレスに不利な条件を出してくるのかもしれない。
そうなっては小さな国であるアレス国では太刀打ちできない。私が上手くやらなくては。
一人の綺麗な侍女が私の前へとやって来る。
「クラリス様。お初にお目にかかります。私、本日よりクラリス様の専属とさせていただきます、リビアと申します。身の回りのお世話や、その他諸々、私が担当させていただきます」
「え、あ、よ、よろしく、お願いします…」
私の小さな挨拶にも、嬉しそうににっこりと笑顔を向けてくれるリビア。
うう、笑顔が眩しい…。
「それではこれよりこのリビアが、クラリス様を国王及び、王太子殿下の元へご案内いたします」
「こちらです」とゆったり歩いて行くリビアにくっつくように、私もその後を追う。
いよいよルプス帝国の国王、ゼウラウス国王と対面だ。
何を言い渡されるのだろうか…。
良くて監禁人質生活、悪くてその場で処刑かもしれない。
自然とごくりと喉が鳴るのが分かった。
覚悟を決めなくてはいけない時が、もう目の前に迫っていた。