恋するソクラテス
『拝啓、自殺する君へ。
これを読んでいるということは私が死んだってことだよね。

遺書でこのセリフを書いてみたかった(笑)

まず最初に!これだけは言わせて、今まで本当にありがとう。
秋桜くんに出会えて私は本当によかった。感謝してます。
もう死んでいるから赤裸々に秋桜くんに伝えたいことを書くね。

私は余命を宣告されたからずっと、色々なことを諦めてた。
なにか新しいことに挑戦すること、死ぬまでにやりたいことをすること、誰かを好きになることも。そういったこと全部諦めてた。
だってそうじゃない?
失うとわかっているのに百パーセント人を好きなるのは無理でしょ?
あの日、覚えてる?秋桜くんが自殺しようとした日。
実はあの日、私も自殺しようとしてたの。
そしたら先客がいたんだもん。そんなことある?(笑)
なぜ秋桜くんの自殺を止めたのか。
それは、きっとね、自分を見ているような気になっちゃったんだよね。
そして、気が付いたら秋桜くんの自殺を止めてた。
私自身びっくりしたよ。
だけど、あの日、秋桜くんが屋上にいなかったら私は残りの人生をこんなに楽しく過ごすことはできなかった。あのまま人生を終わらせてた。そういう意味でも本当にありがとうね。
そこで思ったの、死にたい人ならね、私のわがままに付き合わせてもいいと。
この人となら、やりたいことをできるかもって。
私の人生に一筋の光が射したような気がしたんだ。
だから私は、今までやりたかったことを最後に秋桜くんとしようと決めたの。
もしそこでね、仮に恋に落ちてしまったとしても、死のうとしている二人の恋なら許されるでしょ?
期限付きの恋なら許されるでしょ?
そしたら、意外と秋桜くんはノリが良くて、私のわがままに付き合ってくれた。
しかも、思ったより、優しかった。
うん。本当に優しかった。
ありがとね。
私何回お礼言うんだろう(笑)
私の死ぬまでにやりたいことを秋桜くんとできて本当によかった。
私は秋桜くんと過ごす時間が余生のすべてだったの。
大げさだな~って言いそうだね~。(笑)
もしかして、言ってる~?
よし、これ読んでいる時はもう死んでいるし、素直になろう。
私は、秋桜くんに恋してた。秋桜くんのことが好き。
でも、それは、きっと私が病気じゃくても秋桜くんのことを好きになってた。
どういうことかって?
私が恋できるのは秋桜くんしかいないから秋桜くんのことを好きなったんじゃなくて、そういうのなしにしても私は秋桜くんのことが好き。今までもこれからも。
人にこんなにストレート告白するのは初めてかな。文字でも緊張するね(笑)
秋桜はどう思っていたのかな。
もし同じ気持ちならお墓に私の名前でも差しておいてよ。(笑)

でもね、秋桜くんと関わっていく上で、一緒に過ごしていくことで一つだけね、後悔したことがあったの。
それはね。
生きたいと思うようになってしまった。
もっと、もっと、秋桜くんと一緒にいたいって思ってしまったの。
それは、秋桜くんと過ごしてくことで強くなっていった。
人生でやりたいことじゃくて、秋桜くんと一緒にやりたいことが増えていった。
でも、それをする時間が私にはもうない。
それが唯一、秋桜くんと関わって後悔したこと。


ねぇ、生きたいな。
普通に生きたい。
秋桜くんと生きたかった。
私をこんな気持ちにさせて!本当に罪深い男だよ(笑)
こんな気持ちにさせた私に対しての贖罪として私のお願いを二つ聞きなさい!

一つ、秋桜くんの絵をコンクールに出すこと!どんな小さいコンクールでもいいから秋桜くんの絵をみんなに見てもらってください!
秋桜くんの絵は素晴らしいって私が保証してあげる。だから胸をはってコンクールに出して大丈夫だよ(笑)
約束だよ?うん。よろしい。

そして、二つ!
生きて。
秋桜くんは生きて。
私の分までとは言わないけど、生きて。
そして笑って。笑えない時は泣いてもいいけど(笑)
私のお葬式でも泣いてもいいけど?
秋桜くんは泣かなそうだね(笑)
それはそれでなんだかなぁ。
でも、秋桜くんには笑っていてほしい。
わかったね?わかるよね?
さあ、いつまでも下ばっかり向いてないで、ほら、騒がしい未来が待ってるよ!

それで、私とはもうお別れ。またねじゃない。本当のお別れだよ。
名残惜しいけど。
でも、私はね、いつだって見守ってるよ。
だから、もし生き詰まった時があったら夜空を見上げてよ、どこかに私がいるからさ(笑)
じゃ、バイバイ、さようなら。
最初で最後の本気で恋をした、大好きな秋桜くんへ。
望月しおんより』

『P・S・
最後に私も、自分の名前をクレヨンで描いてみました!』


そこには、一輪の紫苑の花が描かれていた。
僕はその絵を指でなぞる。
その花の横に大きな水玉が落っこちった。
とめられなかった。
涙を。
受け止められなかった。
君に死を。
とめどなく涙があふれ、僕は声をあげて泣いた。子供のように泣いた。声を押し殺すことなんてできなかった。
畳に頭を何回もこすりつけ、畳が鼻水と涙で汚れる。それでも構わず泣いた。
伝えればよかった。
好きだって、一言伝えればよかったんだ。でも出来なかった。
なぜだろう。今、目の前に彼女がいれば言えるのに。
どうして生きているうちに言えなかったんだろう。
悔しくて、また涙があふれ出してきた。
君のいない世界で僕はどう生きていけばいいんだ。
君がいた世界でも生きるのがやっとだったのに。
君と関わって生きていられるかもしれないって思ったのに。
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