恋するソクラテス
今年もまた、君が好きになった季節がやってきたよ。まだ夏の余韻を残しているみたいで、僕は辟易としているけど。
君の命日には、少し早いけれど、ここに来ることができてよかった。
今日は色々報告しないといけないことがあって。
ここに来ているから、わかっているとは思うけど、僕は今もこうして生きている。
先日、やっとシチリアにも行けたよ。
専門学校に入って、色々なアクリルの画材を買って試しているんだけど、それらをシチリアにはもっていかなかった。
なぜって?
君の好きだった画材で描くことが君のお願いに一番適していると思ったからだ。
描いたんだ。絵を。
君がきっとお父さんと見たであろう、シチリアの浜辺をね。
割と、いい仕上がりじゃないかな。
それを今日持ってきたんだ。
これから君の家にお邪魔するつもりだからもしここにいなかったら、その時にもまた見せるよ。
それが終わったら、秋に学校で行われるコンクールに出そうと思ってる。
結果はまたその時にでも。
僕は、先ほど花屋で買った、秋の花を花瓶にさす。
どうやら、お墓参りにも適した花らしい。
僕は手を合わせて、目を閉じる。
花言葉を花屋の店員さんに教えてもらったよ。
『追憶』『遠くにいる人を思う』だってさ。
確かに、故人に送るにはぴったりだよね。
それからもう一つ『君を忘れない』。って意味もあるらしい。
きっと手紙に描いたのはこっちの意味だよね。
そうそう。出会いの話なんだけど、僕も最近こう思うことにした。
いいかい?
僕は地元である秩父が好きじゃないって話をしたよね。
でも、君は地元が好きで、君は死んだら、ここの星になりたいって言ってたろ?
だから、僕は好きになった。
きっと、騒がしい君だから、一番星にでもなっているんだろう。
僕は、今日も夜空を見上げるよ。
だって、どこかに君がいるんだから。
< 15 / 15 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop