恋するソクラテス
僕らは近くの本や文房具が売っているお店に向かうべく歩き始めた。十分ほど歩き、お目当てのお店に着いた。入店するなり、僕らは別々に行動した。僕はアクリルのコーナーへ行き、今足りない絵の具を思い出しながらアクリル絵の具のコーナーを物色した。さまざまな色を順番に眺めていき、気に入った色の絵の具手に取ったりしていると、レジ袋を持った彼女が近づいてきた。
「いろんな色があるんだね~」
「うん、緑だけでもこんなに種類があるんだ」
「秋桜くんは何色が好き?」
「好きな色は白かな。絵を描くうえで一番大事な色」
「へ~。そうなんだ」
「興味なさそうだね」
「そんなことないよ!」
僕は何も買わなかった。帰路に着き、隣を歩く彼女に何を買ったのか尋ねた。が、彼女は最後まで何を買ったのか教えてくれなかった。
彼女は何を買ったんだろうか?
別れ道まで来て、別れの挨拶もそこそこに僕らはそれぞれ家路についた。
その夜は彼女からの連絡はなかった。日曜日であるその次の日も彼女からの連絡はなかった。
日曜日の夜になって、もしかして僕は彼女からの連絡を待っているかもしれないと思った。
今、彼女は何をしているのだろう。
月曜日になって、彼女と深く関わりだして初めての登校日。
僕は、いつものように後ろの扉から教室に入り、席に座る。彼女はまだ来ていなかった。僕は隣の席のクラスメイトに軽く挨拶をし、今日の授業で使う教科書を机にしまう。
手持ち無沙汰の僕はポケットからスマホを取り出し、ネットサーフィンをはじめようとした時、前の扉が開き彼女が教室に入ってきた。彼女は多方向から朝の挨拶を受けて、自分の席に着いた。席に着くなり、彼女といつも行動を共にしている二人のクラスメイトが彼女の席に近づき、彼女を含む三人は談笑を始めた。途中、彼女がこちらをちらりと見た。僕も彼女を見ていたので、目が合ってしまい、すぐにスマホに視線を落とす。
「秋桜、お前、しおんのこと気になってんの?」
隣の席のクラスメイトが話しかけてきた。
「違うよ。うるさいなと思ってさ」
苦笑いしながら答える。
「わかるわ~。うちのクラスの女子マジでうるさいよな~。でも、しおんは可愛くね?」
あまりに唐突な弾丸をどう処理しようか考えたが、僕はなるべく興味なさそうに返した。
「かもね」
「おいおい~。つれねーな」
そこで朝のチャイムが鳴って、隣の席のクラスメイトとの会話は終了した。
担任が教室に入ってきた。受験生だから気を引き締めろだの、将来を気にしろなど、また生きづらくなるような発言を担任は並べ始めた。
「それから週末は台風が来るようだから、外には出ず、家で勉強するように」
休日の在り方までを強要し、担任は教室を後にした。
それから授業は滞りなく進んだ。
四限目の授業が終わり、前の席のクラスメイトに誘われ、食堂に移動する。
「僕、頼んでおくから席、陣取っておいて!」
「わかった。ありがとう」
「何がいい?」
「ん~。醤油ラーメンで」
「おっけ~」
僕は窓際の席に座り、前の席のクラスメイトを待った。
ほどなくして、白いトレイに醤油ラーメンとカレーライスを持って僕の向い側に座った。
二人で昼食を食べ、軽く雑談をし、食器とトレイを返却口に戻して教室に戻ることにする。教室に戻る途中、彼女を含む三人組のグループが前から歩いてきた。僕は前の席のクラスメイトとの会話に夢中です、という雰囲気を醸し出し、彼女を無視することに決めていた。
しかし、彼女はすれ違いざま、僕に「やっほー」と挨拶をしてきたのだ。
僕は前のクラスメイトとの会話を持続させた。
「今の秋桜くんに言ったっぽかったけど?仲いいの?」
「さー?僕に言ってた?」
「えー!じゃ僕に言ったのかな?それって僕に気があるってことかな?」
勝手に舞い上がるクラスメイトを見て「きっとそうなんじゃない?」と返しておいた。すると、さらに舞い上がっていた。
人間はやはり単純なんだなと思った。
その日は、それ以上彼女との接触はなかった。
次の日も、その次の日も、彼女との接点はなかった。
彼女が再び僕の日常に足を踏み入れたのは木曜日。
時間帯は夜。細かくいえば、寝ようとしたタイミング。
スマートフォンが震えた。
彼女からのメールだった。
『やっほー!起きてる?週末、また私に付き合ってもらいたいんだけどいいかな?』
週末は特に予定がないので彼女の誘いに乗ることにした。
『いいよ』
それからすぐに返信が来た。集合時間と集合場所を綴ったものだった。集合時間がやけに早かったが特に気にしなかった。
きっと彼女は朝型なんだろう。
次の日、彼女は学校に来なかった。
「今日、しおん休みだってさ~」
隣の席のクラスメイトが、つまんなそうに僕に言ってきた。
「そうなんだ」
僕はまた、興味なさそうに返した。
「ったく、お前、クラスの人気者のあのしおん様に興味ねぇのか?」
「あるかな」
「嘘つけ!」
その日の学校もいつも通り、何の変哲もなく終わった。
「いろんな色があるんだね~」
「うん、緑だけでもこんなに種類があるんだ」
「秋桜くんは何色が好き?」
「好きな色は白かな。絵を描くうえで一番大事な色」
「へ~。そうなんだ」
「興味なさそうだね」
「そんなことないよ!」
僕は何も買わなかった。帰路に着き、隣を歩く彼女に何を買ったのか尋ねた。が、彼女は最後まで何を買ったのか教えてくれなかった。
彼女は何を買ったんだろうか?
別れ道まで来て、別れの挨拶もそこそこに僕らはそれぞれ家路についた。
その夜は彼女からの連絡はなかった。日曜日であるその次の日も彼女からの連絡はなかった。
日曜日の夜になって、もしかして僕は彼女からの連絡を待っているかもしれないと思った。
今、彼女は何をしているのだろう。
月曜日になって、彼女と深く関わりだして初めての登校日。
僕は、いつものように後ろの扉から教室に入り、席に座る。彼女はまだ来ていなかった。僕は隣の席のクラスメイトに軽く挨拶をし、今日の授業で使う教科書を机にしまう。
手持ち無沙汰の僕はポケットからスマホを取り出し、ネットサーフィンをはじめようとした時、前の扉が開き彼女が教室に入ってきた。彼女は多方向から朝の挨拶を受けて、自分の席に着いた。席に着くなり、彼女といつも行動を共にしている二人のクラスメイトが彼女の席に近づき、彼女を含む三人は談笑を始めた。途中、彼女がこちらをちらりと見た。僕も彼女を見ていたので、目が合ってしまい、すぐにスマホに視線を落とす。
「秋桜、お前、しおんのこと気になってんの?」
隣の席のクラスメイトが話しかけてきた。
「違うよ。うるさいなと思ってさ」
苦笑いしながら答える。
「わかるわ~。うちのクラスの女子マジでうるさいよな~。でも、しおんは可愛くね?」
あまりに唐突な弾丸をどう処理しようか考えたが、僕はなるべく興味なさそうに返した。
「かもね」
「おいおい~。つれねーな」
そこで朝のチャイムが鳴って、隣の席のクラスメイトとの会話は終了した。
担任が教室に入ってきた。受験生だから気を引き締めろだの、将来を気にしろなど、また生きづらくなるような発言を担任は並べ始めた。
「それから週末は台風が来るようだから、外には出ず、家で勉強するように」
休日の在り方までを強要し、担任は教室を後にした。
それから授業は滞りなく進んだ。
四限目の授業が終わり、前の席のクラスメイトに誘われ、食堂に移動する。
「僕、頼んでおくから席、陣取っておいて!」
「わかった。ありがとう」
「何がいい?」
「ん~。醤油ラーメンで」
「おっけ~」
僕は窓際の席に座り、前の席のクラスメイトを待った。
ほどなくして、白いトレイに醤油ラーメンとカレーライスを持って僕の向い側に座った。
二人で昼食を食べ、軽く雑談をし、食器とトレイを返却口に戻して教室に戻ることにする。教室に戻る途中、彼女を含む三人組のグループが前から歩いてきた。僕は前の席のクラスメイトとの会話に夢中です、という雰囲気を醸し出し、彼女を無視することに決めていた。
しかし、彼女はすれ違いざま、僕に「やっほー」と挨拶をしてきたのだ。
僕は前のクラスメイトとの会話を持続させた。
「今の秋桜くんに言ったっぽかったけど?仲いいの?」
「さー?僕に言ってた?」
「えー!じゃ僕に言ったのかな?それって僕に気があるってことかな?」
勝手に舞い上がるクラスメイトを見て「きっとそうなんじゃない?」と返しておいた。すると、さらに舞い上がっていた。
人間はやはり単純なんだなと思った。
その日は、それ以上彼女との接触はなかった。
次の日も、その次の日も、彼女との接点はなかった。
彼女が再び僕の日常に足を踏み入れたのは木曜日。
時間帯は夜。細かくいえば、寝ようとしたタイミング。
スマートフォンが震えた。
彼女からのメールだった。
『やっほー!起きてる?週末、また私に付き合ってもらいたいんだけどいいかな?』
週末は特に予定がないので彼女の誘いに乗ることにした。
『いいよ』
それからすぐに返信が来た。集合時間と集合場所を綴ったものだった。集合時間がやけに早かったが特に気にしなかった。
きっと彼女は朝型なんだろう。
次の日、彼女は学校に来なかった。
「今日、しおん休みだってさ~」
隣の席のクラスメイトが、つまんなそうに僕に言ってきた。
「そうなんだ」
僕はまた、興味なさそうに返した。
「ったく、お前、クラスの人気者のあのしおん様に興味ねぇのか?」
「あるかな」
「嘘つけ!」
その日の学校もいつも通り、何の変哲もなく終わった。