恋するソクラテス
次の日、学校に行くと、僕と彼女が学校をさぼり二人仲良く出かけたことが広まっていた。クラスの人気者の彼女とクラスで目立たない奴が付き合っているのではないかという噂までも立てられていた。
僕はいつものように後ろの扉からひっそりと教室に入った。が、その時点で数人からの視線を感じた。それは、疑問のものもあれば敵対心のものあった。僕はすべて無視した。
「よー。お前、しおんと付き合ってんの?」
席につくなり隣の席のクラスメイトが話しかけてきた。
僕は朝からいろんな人からの視線を浴びて少々いらだっていた。
「違うよ」
「昨日、二人で手をつないで、駅の方に消えていくの見たって言ってたで」
「人違いじゃね?」
「いやいや、二人とも昨日休んだじゃん。なんだよ興味ないとか言ってお前しおんのこと好きなんじゃん。いいな、しおんとデートできるなんて。この色男が」
彼女と関わることで起こる、こう言った面倒なことは全て諦めていた。
どうせ、からかわれるのは隣の席のクラスメイトか前の席のクラスメイトくらいなもんだ。
あとの連中はろくに話したことがないので実害はなさそうだ。多少の視線は目をつぶろう。
そろそろホームルームが始まろうとしているのに彼女はまだ登校していない。
チャイムが鳴り、担任が入ってきた。
「あれ、またしおん休み?」
誰かがそう言い担任が「休みだから、今日の日直は村岡、お前一人だからよろしく」と言った。村岡と呼ばれたそいつは面倒くさそうに「ういーっす」と応えた。
「なんで、しおん休みなん?」
小声で隣の席のクラスメイトが言ってきたので「知るかよ」と返した。
彼女はちょこちょこ学校休む。気にならないと言えば嘘になるが、近々彼女に理由を訊くことはできなかった。なぜならそれから一週間彼女は学校を休んだからだ。
メールもないので僕と彼女の接点はなかった。
彼女が再び登校してきたのは翌週の水曜日だった。登校するなりクラスの男子や女子になぜ休んでいたのか聞かれていた。
教室の喧騒で彼女らの会話を聞き取ることができなかった。彼女はなせ休んだのだろうか。その日も僕はいつも通りの学校を過ごした。昼食の時間になれば前の席のクラスメイトと一緒に食堂へ向かった。午後の授業にも耐え、あと何回学校に来ればいいのか、あと何回学校に来たら死のうかなどと考えながら、帰るため校門まで歩き出した。
「秋桜くーん!」
校門を出て右に歩みを進めようとしたところで彼女に呼び止められた。
僕は振り返り僕に追いつく彼女を待った。
「今日なにか予定ある?」
「いいや、ないけど」
「じゃ、うちに来てよ!」
「え?なんで?」
「夜休みの羊のレコードがうちにあるんだ!一緒に聴こうよ!」
夜休みの羊は今時珍しくレコードを販売している。僕はレコードで彼らの音楽を聴いたことがなかった。レコードをプレイヤーは持っていないからだ。
とても興味深い代物だったので、僕は彼女と一緒に彼女の家に行くことにした。彼女の家は僕の家とは反対方向にある。二人並んで歩く。
「今時、レコードを出すっておしゃれだよね~!」
「うん、けどCDは販売しないっていう」
「そうそう!そういうとこがまたいいんだよ。秋桜くんは普段はサブスクで聴いてる感じ?」
「そうだよ。またレコードだと違う感じがするけど」
「そうなんだよ!またレコードで聴くと一味違うんだよ!」
彼女はレコードの魅力について語り始めた。レコードにしか出せない音色やアンプによっても音色がことなるなど。レコードについてイマイチ理解していなかった僕にとって、それは興味深いものだった。
「あれだよ!」
数十分歩き、彼女が指さす先に、外壁が水色の家があった。
どこにでもある作りの二階建ての一軒家。
木でできた可愛らしい表札が僕を出迎えた。僕の視線に気づいた彼女が「それ小学校の頃に作ったの」と言ってきた。
彼女の後ろにつき、彼女が家のカギをあける。
同級生の女の子の親に会うと思うと少し緊張した。
「あっ!親いないから大丈夫だよ!緊張してる?」
クスクス笑う彼女。
どうやら緊張しているのがバレていたらしい。
「あ、あ~。そう・・・」
はやくいってくれよ。
「どうぞ!」
彼女の後に続いて、僕は初めて同級生の女の子の家に足を踏みいれた。
「お邪魔します」
彼女が誰もいない家の電気をつけていく。
洗面所に案内してもらい、律儀に手洗いうがいをすませる。それをみて、彼女は「りっちぎ~」といった。
僕は彼女に倣って二階にあがり彼女の部屋に入った。彼女の部屋はシンプルで片付いていた。勉強机、本棚、ベッド、本棚の合間にレコードプレーヤーとその横にいくつかのレコードも置かれていた。
「ちょっとジュース持ってくる!」
「お気遣いなく」
彼女が部屋を出ていき一人になった。改めて部屋を見回す。すると勉強机に彼女がいつも書き込みをしている日記が置いてあるのに気がついた。
僕の中にも邪心というものがあったのだろう。僕は日記の中身が気になった。少しだけ日記を見たいという衝動に駆られ、僕は日記に手を伸ばした。
手に持つとそれは数百ページのもので、僕はぺらりと一ページ目を開いた。そこには可愛い丸文字が並んでいた。
『十月二十日
今日、病気だと診断された。余命は一年。
お父さんと同じ病気でやっぱりなって思った。
家に帰っても何もやる気が起きないのでネットで調べたところ日記を書くことに決めた。
今日から・・・・・』
「お待たせ―。・・・・!」
彼女は勢いよく部屋に入ってきた。僕は慌てて日記を閉じたが間に合わなかった。
「・・・これは・・そ、その・・・ごめん」
変に言い訳するはよろしくないと思い僕は素直に謝った。
「・・・・見ちゃったんだ・・・」
僕はいつものように後ろの扉からひっそりと教室に入った。が、その時点で数人からの視線を感じた。それは、疑問のものもあれば敵対心のものあった。僕はすべて無視した。
「よー。お前、しおんと付き合ってんの?」
席につくなり隣の席のクラスメイトが話しかけてきた。
僕は朝からいろんな人からの視線を浴びて少々いらだっていた。
「違うよ」
「昨日、二人で手をつないで、駅の方に消えていくの見たって言ってたで」
「人違いじゃね?」
「いやいや、二人とも昨日休んだじゃん。なんだよ興味ないとか言ってお前しおんのこと好きなんじゃん。いいな、しおんとデートできるなんて。この色男が」
彼女と関わることで起こる、こう言った面倒なことは全て諦めていた。
どうせ、からかわれるのは隣の席のクラスメイトか前の席のクラスメイトくらいなもんだ。
あとの連中はろくに話したことがないので実害はなさそうだ。多少の視線は目をつぶろう。
そろそろホームルームが始まろうとしているのに彼女はまだ登校していない。
チャイムが鳴り、担任が入ってきた。
「あれ、またしおん休み?」
誰かがそう言い担任が「休みだから、今日の日直は村岡、お前一人だからよろしく」と言った。村岡と呼ばれたそいつは面倒くさそうに「ういーっす」と応えた。
「なんで、しおん休みなん?」
小声で隣の席のクラスメイトが言ってきたので「知るかよ」と返した。
彼女はちょこちょこ学校休む。気にならないと言えば嘘になるが、近々彼女に理由を訊くことはできなかった。なぜならそれから一週間彼女は学校を休んだからだ。
メールもないので僕と彼女の接点はなかった。
彼女が再び登校してきたのは翌週の水曜日だった。登校するなりクラスの男子や女子になぜ休んでいたのか聞かれていた。
教室の喧騒で彼女らの会話を聞き取ることができなかった。彼女はなせ休んだのだろうか。その日も僕はいつも通りの学校を過ごした。昼食の時間になれば前の席のクラスメイトと一緒に食堂へ向かった。午後の授業にも耐え、あと何回学校に来ればいいのか、あと何回学校に来たら死のうかなどと考えながら、帰るため校門まで歩き出した。
「秋桜くーん!」
校門を出て右に歩みを進めようとしたところで彼女に呼び止められた。
僕は振り返り僕に追いつく彼女を待った。
「今日なにか予定ある?」
「いいや、ないけど」
「じゃ、うちに来てよ!」
「え?なんで?」
「夜休みの羊のレコードがうちにあるんだ!一緒に聴こうよ!」
夜休みの羊は今時珍しくレコードを販売している。僕はレコードで彼らの音楽を聴いたことがなかった。レコードをプレイヤーは持っていないからだ。
とても興味深い代物だったので、僕は彼女と一緒に彼女の家に行くことにした。彼女の家は僕の家とは反対方向にある。二人並んで歩く。
「今時、レコードを出すっておしゃれだよね~!」
「うん、けどCDは販売しないっていう」
「そうそう!そういうとこがまたいいんだよ。秋桜くんは普段はサブスクで聴いてる感じ?」
「そうだよ。またレコードだと違う感じがするけど」
「そうなんだよ!またレコードで聴くと一味違うんだよ!」
彼女はレコードの魅力について語り始めた。レコードにしか出せない音色やアンプによっても音色がことなるなど。レコードについてイマイチ理解していなかった僕にとって、それは興味深いものだった。
「あれだよ!」
数十分歩き、彼女が指さす先に、外壁が水色の家があった。
どこにでもある作りの二階建ての一軒家。
木でできた可愛らしい表札が僕を出迎えた。僕の視線に気づいた彼女が「それ小学校の頃に作ったの」と言ってきた。
彼女の後ろにつき、彼女が家のカギをあける。
同級生の女の子の親に会うと思うと少し緊張した。
「あっ!親いないから大丈夫だよ!緊張してる?」
クスクス笑う彼女。
どうやら緊張しているのがバレていたらしい。
「あ、あ~。そう・・・」
はやくいってくれよ。
「どうぞ!」
彼女の後に続いて、僕は初めて同級生の女の子の家に足を踏みいれた。
「お邪魔します」
彼女が誰もいない家の電気をつけていく。
洗面所に案内してもらい、律儀に手洗いうがいをすませる。それをみて、彼女は「りっちぎ~」といった。
僕は彼女に倣って二階にあがり彼女の部屋に入った。彼女の部屋はシンプルで片付いていた。勉強机、本棚、ベッド、本棚の合間にレコードプレーヤーとその横にいくつかのレコードも置かれていた。
「ちょっとジュース持ってくる!」
「お気遣いなく」
彼女が部屋を出ていき一人になった。改めて部屋を見回す。すると勉強机に彼女がいつも書き込みをしている日記が置いてあるのに気がついた。
僕の中にも邪心というものがあったのだろう。僕は日記の中身が気になった。少しだけ日記を見たいという衝動に駆られ、僕は日記に手を伸ばした。
手に持つとそれは数百ページのもので、僕はぺらりと一ページ目を開いた。そこには可愛い丸文字が並んでいた。
『十月二十日
今日、病気だと診断された。余命は一年。
お父さんと同じ病気でやっぱりなって思った。
家に帰っても何もやる気が起きないのでネットで調べたところ日記を書くことに決めた。
今日から・・・・・』
「お待たせ―。・・・・!」
彼女は勢いよく部屋に入ってきた。僕は慌てて日記を閉じたが間に合わなかった。
「・・・これは・・そ、その・・・ごめん」
変に言い訳するはよろしくないと思い僕は素直に謝った。
「・・・・見ちゃったんだ・・・」