魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

1 忌み嫌われる魔女

「魔女だわ!」

 十歳のアリーセに向けられるのは、今まで優しく接してくれていた女性の恐れに満ちたまなざし。女性は幼い息子をぎゅっと抱きしめ、震える指でアリーセを指す。

「不思議な力を使ったわ! 息子を殺そうとしたの! あの子は魔女よ!」

 違う、とアリーセは言いたかった。
 魔法を使ったのは、彼女の息子が登った木から落ちそうになっていたから。だから、風の魔法で少しでも衝撃を弱めようと思っただけ。ふわりと身体が宙に浮いたのは確かだけれど、でも、すぐに優しく地面に着地させた。そのまま落ちた方が痛い思いをしていたはず。助けたと言ってもいい。なのに。
 アリーセは味方を求めてぐるりと辺りを見渡す。
 村の広場は普段から多くの人たちが利用している。今日も周囲には他にもベンチで休んでいる老人や遊んでいる子どもたちとその保護者などがいた。彼らがアリーセに害意などなかったと証言してくれれば。
 しかし、それは無理だとアリーセはすぐに悟る。
 そこにいた人々のまなざしは女性と同じだった。恐怖と憎しみがない混ざったそれ。

「この辺りで見かけない子だと思ったら魔女が紛れていたのね!」

 別の女性がアリーセを糾弾する。会ったら挨拶くらいする顔見知りの女性だった。
 他の大人たちも、皆、口々にアリーセを魔女だと非難する言葉を発する。

「この村に厄災をもたらすつもりか!」
「ちが……」

 アリーセが震える唇で言葉を紡ごうとしたとき、右のこめかみにずきりと痛みが走る。
 誰かがアリーセに向かって石を投げたのだ。

「魔女は出ていけ!」

 出ていけ! 出ていけ! 
 出て行けという大声は、あっという間に広場の人間に広がる。

(ただ、たすけようとしただけなのに) 

 立ち尽くすアリーセの身体にまた石が当たる。

(ベルタのいっていたことはこれだったんだ……)

 アリーセは森の奥の一軒家で一緒に住む保護者のことを思い出した。ベルタもまた、アリーセと同じく魔法が使える。
 彼女はアリーセが森の外に出るのをよく思っていなかった。ただ、縛り付けるのは逆効果だと思ったのだろう。アリーセに絶対魔法を使わないようにきつく言って、森を出るのを許してくれた。
 アリーセは意味がわからないなりにその言いつけを守っていたのだ。さきほどまでは。

『このラウフェン王国では、五百年前に魔女が暴走して王都を滅ぼしかけたことがあるの。それ以来、この国では魔女は厄災を呼ぶものとして忌み嫌われているのよ』

 魔法だっていいことに使ったのなら大丈夫だと思っていた。けれど、それは根拠のない思い込みでしかなかったのだ。
「魔女なんてたとえ子どもでも殺してしまえ!」
 誰かが叫ぶ。再び石がぶつかる。よけきれないほどの石が、アリーセに向かって投げられる。その中にはかなり大きなものもあった。
 本気で命の危険を感じて――。
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