魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

3 助けに来た魔法使い

「本当にお前が乗り込むつもりなのか?」

 小さな宿の部屋。否定する答えを期待しながら、レナール・シェルヴェは目の前で木製の椅子にゆったりと座っている青年に尋ねた。
 が、レナールの望みはあっさりと砕かれる。

「もちろん」

 青年――ユーグ・ノエ・ルフェーブルはにっこりと笑う。

「そのために、わざわざカルタンまで三日もかけてきたんだよ」

 予想通りの回答だった。だからといって、レナールの心労が軽減されるわけではない。ユーグの前に立ったまま、レナールはため息をつきそうになるのをこらえた。
 ピリエ王国西方にある都市カルタン。人のよさそうな宿の主人は、庶民の青年といった風情のユーグの正体を知ったらきっと卒倒するだろう、とレナールは思う。

「だが」

 反論のために口を開いたレナールを、ユーグはあっさりと遮る。

「人身売買組織を放っておく訳にはいかないでしょう? 君は僕が常々気にかけていたことを知っているよね。そして、ようやく有力情報が手に入った」
「……それは、そうだが」

 レナールとユーグが揉めているのは、人身売買が行われている商会に誰が客として乗り込むかだった。
 立場上、レナールは、ユーグに行かせるくらいなら自分が行った方がマシだと思っている。なのにユーグは自分で行くといって聞かないのだ。

「それに、君はこういう潜入捜査には向かないでしょ。君は目立ちすぎるから」

 ぐっとレナールは言葉に詰まる。
 確かに、外見だけでいったらレナールは非常に目立つ、らしい。黒髪に深い青の瞳という組み合わせがピリエでは珍しいからだろう。以前、そう真顔で言ったら「君、一度鏡で自分の顔をよく見た方がいいよ」とユーグが呆れていたけれど。
 一方のユーグはこの国ではありふれた茶色の髪に緑色の瞳。整った顔立ちをしているけれど、印象はどこか地味で薄い。でも、それは彼がそう見せようとしているからだということをレナールはよく知っている。

「だけど、お前はこの国の王太子なんだぞ」

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