魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
『とにかくだめだ。お前が婚約するくらいなら俺がする。王太子ではないが、目的を考えれば俺だっていいだろう』

 レナールがきっぱりと宣言すると、ユーグはにやりと笑った。

『開き直ったね』
『悪いか?』
『ううん。揺さぶった甲斐があったなって思っていたところ』
『なっ』

 聞き捨てならないセリフを言われて、レナールは絶句した。

『長い付き合いだもの、君がアリーセに対して感情を揺らすことくらい、気づいていたに決まっているでしょう?』
『感情を揺らす……?』
『カルタンで事情聴取をしたときからそうだよ。いつもの君なら、いくら助けた相手とはいえ初対面に近い人間に自分からよく眠れたか、なんて聞かない。答えが返ってきて微笑んだりもしない。それに、魔力の搾取の可能性だって、知ったとき本気で怒っていたでしょう。むしろ君が全然それに気づいていないことの方が不思議だったけど』

 ユーグの指摘にレナールは目を見開いた。自分が気づく前より先に、ユーグが気づいていたとは思わなかったのだ。たまにニヤニヤしているとは思っていたが。

『よし、じゃあ、婚約者はアリーセ嬢に選んでもらおう。僕か君か』
『なんでこの話の流れでそうなるんだ』
『だってそっちの方が面白いでしょう。大丈夫。アリーセ嬢は君を選ぶよ』

 ユーグは大丈夫と言ったけれど、彼女が自分を選んでくれるまでとても不安で仕方なかった。確かに、自分らしくないと思う。
 今まで、レナールは何でもそつなくやってきた。自分の能力がそこそこ恵まれていることは自覚していたし、だからといってそれにあぐらをかくことなく、きちんと努力を重ねてきた自負もある。感情は安定していて、不安というものをあまり覚えたことはなかった。
 なのに。アリーセが絡むとささいなことでもすぐに不安に駆られてしまう。
 それをユーグは『人間らしくなったってことだよ』と評価してくれると、本当にそうなのだろうか。

< 105 / 147 >

この作品をシェア

pagetop