魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
(遅いな……)
レナールは報告書を書く手を止めた。
アリーセが隣の部屋に綴じ紐を取りに行ってから戻ってこない。こんなに長く時間がかかるものだろうか。
そう思った途端に焦燥感めいたものが込み上がってきて、自分を落ち着かせるためにレナールは深呼吸をした。
どうも、アリーセのことになると感情が大きく揺れる。自分らしくない。自分はもっと冷静に動けたはずなのに。
ラウフェン王宮。もともとアリーセをここに連れてくることは反対だった。
ラウフェンが魔法使いにとって住みにくい国であることは常識だ。そんなところで生まれたアリーセは、どうやら贖罪と称して「監視者」に魔力を搾取されていたらしい。
アリーセの魔力が貴重な聖属性であることをラウフェンが知っていたかはわからない。ただ、ラウフェン側――アリーセのいう「監視者」がアリーセを取り戻そうとする可能性を捨てられなかった。
実際、ラウフェンに来てみれば、王太子は友好的で、アリーセが魔女だと貴族令嬢から糾弾された際も徹底的に守ってくれた。豊穣のロストだと思っていたアリーセが祈りを込めていた水晶玉も、今のところ増幅の効果があることしかわからない。
――レナールの考えすぎだったのだろうか。
だが、アリーセの魔力が何かに使用されていたことは確かだ。
だからといって、レナールは積極的に首を突っ込むつもりはなかった。レナールにとって一番大事なのは、アリーセと連れてピリエに帰ることだったから。ラウフェンの事情なんて興味はない。外交として及第点を取れればそれでいい。レナールとして出来ることは、今手がけている報告書をまとめるだけ。
アリーセは監視者の一人だったという第二王子のジギワルドと改めて話をするつもりらしい。正直なところ不安だった。アリーセがジギワルドにほだされて、ピリエに残ると言い出したら、と考えてしまうのだ。
――ジギワルドはアリーセのことを愛している。
ジギワルドの彼女を見る目は特別だ。アリーセは気づいていないようだけれど。
レナールが気づいたのだって、彼が自分と同じ感情をアリーセに向けていたからだろう。そして、たぶんジギワルドもレナールの気持ちに気づいている。
レナールは報告書を書く手を止めた。
アリーセが隣の部屋に綴じ紐を取りに行ってから戻ってこない。こんなに長く時間がかかるものだろうか。
そう思った途端に焦燥感めいたものが込み上がってきて、自分を落ち着かせるためにレナールは深呼吸をした。
どうも、アリーセのことになると感情が大きく揺れる。自分らしくない。自分はもっと冷静に動けたはずなのに。
ラウフェン王宮。もともとアリーセをここに連れてくることは反対だった。
ラウフェンが魔法使いにとって住みにくい国であることは常識だ。そんなところで生まれたアリーセは、どうやら贖罪と称して「監視者」に魔力を搾取されていたらしい。
アリーセの魔力が貴重な聖属性であることをラウフェンが知っていたかはわからない。ただ、ラウフェン側――アリーセのいう「監視者」がアリーセを取り戻そうとする可能性を捨てられなかった。
実際、ラウフェンに来てみれば、王太子は友好的で、アリーセが魔女だと貴族令嬢から糾弾された際も徹底的に守ってくれた。豊穣のロストだと思っていたアリーセが祈りを込めていた水晶玉も、今のところ増幅の効果があることしかわからない。
――レナールの考えすぎだったのだろうか。
だが、アリーセの魔力が何かに使用されていたことは確かだ。
だからといって、レナールは積極的に首を突っ込むつもりはなかった。レナールにとって一番大事なのは、アリーセと連れてピリエに帰ることだったから。ラウフェンの事情なんて興味はない。外交として及第点を取れればそれでいい。レナールとして出来ることは、今手がけている報告書をまとめるだけ。
アリーセは監視者の一人だったという第二王子のジギワルドと改めて話をするつもりらしい。正直なところ不安だった。アリーセがジギワルドにほだされて、ピリエに残ると言い出したら、と考えてしまうのだ。
――ジギワルドはアリーセのことを愛している。
ジギワルドの彼女を見る目は特別だ。アリーセは気づいていないようだけれど。
レナールが気づいたのだって、彼が自分と同じ感情をアリーセに向けていたからだろう。そして、たぶんジギワルドもレナールの気持ちに気づいている。