魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 ブラッツが扉を開けて中に入ってくる。

「子爵。アリーセ嬢がいなくなったと聞いたが」

 レナールは立ち上がると、ブラッツに事情を話した。ブラッツの顔が険しくなっていく。

「すまない。やはりこの前の夜会の件が原因だろうか」
「それは正直わかりません」

 どちらかというと「贖罪」関連だと思うが、ブラッツがどこまで事情を把握しているかわからないので、ごまかしておく。

「もちろん、全力でアリーセを探すと約束しよう。騎士団を」
「いえ。いりません。その代わり、馬を一頭借りられますか?」

 大がかりな捜索などは必要ない。大体見当はついている。

「どういうことだ?」
「――アリーセの魔力探査をします。魔法を使う必要があるので、私一人で行った方がいいでしょう」

 バッジに仕掛けがしてあることは、機密に近いのではっきりとは言わない。

「だが。危険だ。騎士団に任せた方がいい」
「いえ。ある程度の体術は使えます。それに、私には魔法があります」

 レナールはきっぱり言い切った。
 ブラッツが目を見開く。
 一番穏便な方法は、ブラッツに先ほど探知したアリーセの大体の居場所を知らせ、騎士団に捜索してもらうことだろう。ブラッツなら、うまいこと魔法を使ったことをごまかして現場に伝えてくれるはずだ。けれど。
 アリーセの命に関わるかもしれないことを、他人に任せる気持ちにはなれなかった。
 そわそわ落ち着かない気分で待っているなんてごめんだった。

「私が直接行くのが彼女を助ける最短で最善の方法です。騎士団の方に魔法について説明するのは大変でしょう。殿下」

 レナールが本気であることを悟ったのか、ブラッツが息を吐き出した。

「わかった。だが、魔法に偏見がない者を数名つける。それでいいか?」
「ありがとうございます」

 ブラッツの申し出はありがたかった。それなりに剣の腕もあるし、魔法だって使える。が、味方は多いに越したことはない。

(アリーセ。どうか無事で)

 必ず俺が助けるから。

< 108 / 147 >

この作品をシェア

pagetop