魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 そう。ユーグはこのピリエ王国の王太子殿下なのだ。
 レナールだって、二人きりだからこそ、親友兼幼なじみ特権でこうして砕けた言葉遣いをしているが、人前では敬語で接している。
 信頼出来る部下――この場合は騎士団に任せればいいのに、ユーグは何でも自分で前に立ちたがるのだ。しかも顔に似合わず好戦的で相手を負かす腕があるからたちが悪い。
 ちなみにレナールもユーグの補佐官なだけで、騎士団とは何の関係もない。ただただ、ユーグのお目付役としてここまで来ただけだ。

「それを言ったら、君だってあまり変わらないと思うけどなあ。王位継承権を持つ次期公爵様なんだから」
「全然違うだろ」

 確かにレナールは公爵家の嫡男だ。年齢は二十二歳。今は実家の従属爵位であるサヴィール子爵を名乗っている。順調にいけば公爵位を継ぐだろう。祖父が婿入りした元王子なので、低いながら王位継承権を持っていることも確かだ。
 だが、ユーグは生まれながらの王族で王太子。レナールはあくまで臣下。
 レナールに何かあった場合、レナールの責任だけで済むが、ユーグに何かあった場合、確実にレナールの責任も問われる。

「そう? 仮にも王太子の僕を差し置いて、ピリエの貴族令嬢の中で結婚したい男ナンバーワンは君だって聞いたけど」
「何だそれ。今は関係ないだろう」

 なんでこの状況でそんな話が出てくるのだ。呆れた顔でユーグを見る。

「その冷たい視線がかっこいいんだってさ。滅多に笑わないのがクールで素敵なんだって」
「全く意味がわからない」
「そう怒らないでよ。ふざけるのはこれくらいにするから。それに君だって面倒だからついてきただけでしょ?」

 レナールの眉間に刻んだしわが深くなったのに気づいたのだろう。ユーグは立ち上がると、一転真面目な顔をした。
< 11 / 147 >

この作品をシェア

pagetop