魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

「じゃあ、そういうことで、俺は先に行かせてもらうぜ」

　男は余裕の口調で言うと再び歩こうと足を踏み出した。その瞬間。
　ぴきぴきぴき、と何かが凍り付くような音がした。男の歩みが止まる。

「ど、どういうことだ」

　男が戸惑う声を上げる。アリーセも同じだった。
　その間にもレナールがこちらに近づいてくる。
　状況がよく見えないけれど、レナールに魔法が効かず、代わりにレナールが男の自由を奪った、ということだろうか。

「アリーセ！」

　アリーセの顔に影が落ちる。レナールが側に来たのだ。
　ふわり、と身体が浮いたと思ったら、次の瞬間、アリーセはレナールに横抱きに抱きかかえられていた。顔を上げると、覗き込むレナールの青い目を視線が合う。それだけで少し泣きそうになった。

「まったく、こんなものを……」

　レナールは猿ぐつわがされたアリーセを見て顔をしかめる。
　レナールは男から少し離れた場所まで歩くと、労るようにアリーセを地面に下ろした。そして、アリーセの自由を拘束していた猿ぐつわと縄をといてくれた。

「レナール様……」

　魔法はいつの間にか解けていたらしい。彼の名前を呼ぶことが出来た。

「ありがとうございます」