魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 アリーセの目を見て、レナールは心配そうな顔をした。

「何か、ひどいことはされていないか?」
「大丈夫です」
「よかった……君に何かあったら、俺は……」

 レナールがアリーセの方に手を伸ばした瞬間、

「どうして俺の魔法が効かないんだ!」

 男の怒鳴り声が響いた。
 レナールは小さく舌打ちをすると、やや乱暴に男の方に向き直る。アリーセも男の方を見て状況を把握した。
 男の腰まで凍り付けになっている。これでは動くこともできない。レナールの魔法だろう。

「一体お前は何をした!」

 男がレナールを見て再度怒鳴った。おそらく、今まで男は先ほどの魔法で戦いを優位に進めてきたのだろう。なのに突然これだ。
 レナールはアリーセを守るように前に出る。道の上に立って対峙するような形になった。

「……お前がさっき使った封印魔法は、初歩の初歩の有名なものだ。詠唱が特徴的だからすぐわかる。使う魔法がわかれば対処もできる。それだけだ」

 男にとっては初めて聞く話だったらしい。男が目を丸くする。

「ばかな」
「事実、俺は魔法にかからなかった。ちなみに、魔法で戦うつもりがある者なら最初に封印魔法への対処を教わるぞ。お前の魔法が効いていたとしたら――たまたま対処を知る者を相手にしていなかっただけだ」

 レナールは淡々と答える。

「さて。今度は俺が質問する番だ」

 レナールは男の前に立つ。上着からナイフを取り出すと、男の首筋にあてた。
 ひんやりと冷たい声で問いかける。

「お前は彼女を連れてどこへ行くつもりだった?」
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