魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 レナールが乗ってきたという馬に一緒に乗せてもらう。
 こうして馬に乗るのは初めてだ。レナールの前にアリーセが座っている。手綱を握っているのはもちろんレナールだ。左手はアリーセを支えるためにがっちりアリーセの腰に回っている。体温が感じられるほどの距離にレナールがいて、アリーセの心臓はどきどきが止まらない。
 日が暮れようとしている。残処理は騎士に任せたので、あとは王宮に帰るだけ。
 夕焼けの街を馬はのんびり歩いて行く。

「そういえば、どうしてレナール様は私の居場所がわかったんですか?」
「職員章を付けていただろう。あれには魔力が込められていて、有事に魔力探索が出来るようになっている。もっとも、あまり公にはされていないが」

 初耳だった。驚いたアリーセは胸に付けているバッジに視線を落とす。

「これの、おかげ……」
「ああ。個人の特定までは無理だが、今、ラウフェンにいるピリエの王宮職員は皆王宮にいるはずだからな。すぐに見当を付けることができた。王宮に捕らわれていなくて助かった」

 ぎゅっとアリーセの腰に回された手に、力が込められたのがわかった。

「――君が忽然といなくなったとき、肝が冷えた」

 ぽつりとレナールが言った。

「すみません」

 アリーセとしては謝罪しかできない。ほんの少しの距離でも一人になってはいけなかったのだ。

「いや、君は悪くない。とにかく君が無事でよかった」

 レナールの心の底から絞り出したような声に、アリーセの心臓がぎゅっと掴まれる。
 どうして彼はこんな声を出すのだろう。それは後見人だから? かりそめとはいえ婚約者だから? でも、期待してしまいたくなる自分がいる。
 さっきだってそうだ。どうして抱きしめてくれたんだろう。
 レナールが向けてくれる優しさに、アリーセは希望を持ってしまいそうになる。

 ――レナールが、アリーセに恋愛的な意味で好意を持ってくれているのではないか、と。

 だって、アリーセはレナールのことが好きだから。
 もう、目を背けることはできそうにない。
 自分の身をわきまえるならば、この感情を自覚するべきではなかったのに。
 アリーセは腰に回されたレナールの腕に自分の手を重ねた。背後でレナールが息を詰める。それがアリーセにドキドキしたからだといいのに。

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