魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 その暴走があまりにも悲惨な事態を引き起こしたことから、人々が魔法を恐れるようになった一面はある。だが「忌み嫌う」ほどではなかった。そこには人の意図が関わっていた。
 それは――そのときの王族だ。
 魔女が研究していたロストはどれも有益なもので、王族はロストを利用することを思いついた。そして、その利権を独占するために、民衆が魔法を忌み嫌うように仕向けたのだ。そして魔女を憎むべきものとし、魔法を使うことは悪だとすり込んだ。
 暴走を引き起こした魔女の一族については、惨劇の賠償金をチャラにする代わりにロストの運用に協力するよう要求する。
 そして、一族の血を引く少女から、一人ロストに魔力を捧げる人間が選ばれるようになった。それは今でも続いており、当代がアリーセだった。

「あの祈りは、魔女が解析したロストに魔力を供給する呪文だ。あなたには祈りと称してロストを動かしてもらっていたんだ。森の家のロストは、王宮にあるロストとつながっている」
「……」

 だから、アリーセたちが祈りの間を確認しても、増幅の回路しかなかったのかもしれない。あのロストはあくまで効率的に魔力を送り込むためのものだったのだ。

「私が魔女の子孫だから贖罪をさせられていたことはわかりました。では、監視者はどうやって選ばれていたんですか?」
「ロストの存在は国家機密だからね。知っているのは王族と王族の血を引く者だけ。監視者はそれとイコールだ」

 だから、第二王子であるジギワルドが監視者だったのか。
 まだ釈然としない部分は残るものの、大体の謎は解けたといっていいだろう。
 最後に一つだけアリーセは尋ねる。

「ジギワルド様はどうしてそれを私に教えてくださったんですか?」
「――国の繁栄のために誰かを犠牲にするのは間違っていると思ったから。それをあなたが気づかせてくれた」

 ジギワルドはどことなくさみしげな笑みを浮かべた。

「だから、私はラウフェンを少しずつ変えていきたいと思っている。魔法に対する認識を改めたい。幸いなことに次期国王である兄上も同じ気持ちだ」
「――ピリエから応援しています」

 アリーセの本心だった。
 そうなればいい、と思う。魔法は使い方次第ではとても役に立つ。ただ魔法を使ったというだけで石を投げられるようなことは間違っている。
 長い年月をかけて培われた土壌がそう変わるとは思えない。それでも、腰を据えて説得にかかれば、いつかきっとわかってくれるはずだ。あのとき、アリーセが助けた少年が魔法を認めてくれたように。

< 117 / 147 >

この作品をシェア

pagetop