魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「ありがとう。アリーセ。あなたと話す時間はとても楽しかったよ」
「私もです。あの森の家で、ジギワルド様の来訪は私の唯一の楽しみでした」

 ジギワルドははっとした顔をして、それから顔を歪めた。

「そうか。私は――。いや、もう遅いな。とにかく、あなたは早くこの国から出た方がいい」

 ジギワルドが真剣な顔でアリーセに言い聞かせる。
 何故か、とは聞かなくてもわかる。アリーセに再びあのロストを使わせたい人間がいるからだ。つまり、アリーセにラウフェンに残ってほしい者がいる。

「はい。ただ、不思議なんですが、どうして私じゃなきゃだめなんでしょうか」

 アリーセは確かに聖属性の魔力を持っている。だが、それはロストの運用には関わりがないはずだ。

「ロストは魔力さえあれば誰にも扱えるはずです。私じゃなくても、ラウフェンに魔力を持つ人間はたくさんいるはず。私にこだわる必要はないんです」

 ジギワルドが回答するまでほんの少しの間があった。

「この国は魔法に関しては本当に頑なだから。大丈夫だとわかっていても、習わしを崩せないのだろう。それに、協力者を増やすということは、知られる可能性が増えることでもある」

 なるほど。そういう考え方もあるのか。

「これで話は終わりだよ。そろそろあなたの婚約者も限界みたいだし」
「――え?」

 意味がわからないときょとんとするアリーセにジギワルドが笑った。

「子爵。話は終わったよ」

 ジギワルドがレナールに声をかけると、レナールがすぐにアリーセの後ろまで移動してくる。アリーセの肩にぽんと手が置かれた。

「変なことはしていないよ。君も見ていただろう?」

 レナールが警戒心をむき出しにしているのだろう。ジギワルドが無実だとでも言いたげに両手を挙げながら苦笑する。が、すぐに真剣な顔になった。

「子爵。アリーセにも言ったが、君たちは早くこの国を出た方がいい」
「わかっています。明日中にブラッツ殿下に報告書を渡して、明後日には出発します」

 レナールの回答にジギワルドが満足げにうなずいた。

「アリーセをよろしく頼むよ」
「もちろんです」
「じゃあ、私はこれで」

 ジギワルドの視線が揺れたのは一瞬。すぐに彼は立ち上がる。
 去り際、アリーセにそっと囁いた。

「アリーセ。私はあなたの幸せを祈っている」

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