魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「いいか。レナール。客として潜入するのは僕だ。その代わり君には頼みたいことがある」

 ユーグの雰囲気が変わる。人の上に立つのに慣れた王太子の姿だ。レナールの背筋が反射的に伸びる。

「魔法で気配を薄くして、中を探ってきてほしい。君にしかできないだろう」

 レナールは魔法使いだ。ユーグも多少魔法の心得はあるが、レナールのように多彩な魔法は使えない。

「捕らわれた者の中に魔法使いがいるという情報がある。君にはその魔法使いを保護してほしい」

 レナールは小さく息を呑んだ。

 この世界で、魔力を持つ人間は貴重だ。
 ピリエ王国があるパストル大陸には大小合わせて二十以上の国がある。
 ピリエでは、大陸にある国の中でも特に魔法に力をいれていた。魔法道具の研究は一番進んでいると言っていいだろう。
 だが、同じ大陸の中には、隣国ラウフェンのように魔法を忌み嫌う国もある。そんな国から魔法使いを攫って売る、なんてことが行われているらしい。ピリエでは魔法が使える奴隷は重宝されるので、高く売れるのだ。

「――最初からそのつもりで俺を連れてきたな」
「大正解。魔法使いって基本インドア派じゃない? こういう捜査に向く人間がなかなかいなくてさ。その点、君なら騎士団からもスカウトが来たくらいだ。魔法だけじゃなく剣の腕も信用出来る」

 そんな風に言われてしまったら、レナールも引き受けざるを得ない。
 最初からなんとなくこうなる気はしていた。
 だが、ユーグに認められている事実は悪くない。
 レナールもユーグの手腕を認めている。こうして補佐官を続けているくらいには。

「わかったよ。だが、何かあったときはお前が説明するんだぞ」

 ため息交じりにレナールがそう言うと、ユーグは大きく胸を張って答えた。

「もちろん」

 とりあえず言質は取った。
 あとは各所との調整だ。カルタンにも王立騎士団の支部がある。まずそこに話を通して、人を借りる算段を立てないと。
 レナールはこれからやることを頭の中に巡らせた。
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